最終更新日:2007年1月28日
『ノンコンプライアンス・レコード』

 『ノンコンプライアンス・レコード』
  紙智子事務所[編]
  合同出版刊 2006.8発行
  価格:¥2,000+税 A5判/221p
  ISBN:9784772603690

気になる本
2006.10.24 / No.348
■米国産牛肉を食べる前に読む
『ノンコンプライアンス・レコード』
日本向け米国食肉処理施設におけるBSE違反記録

 2005年12月に“無理やり”再開した米国産牛肉の輸入も、その後わずか1ヶ月あまりで脊柱混入が発覚し、再度の全面輸入禁止となった。これも半年で再び解禁されてしまった。7月の解禁に当たり日本政府は、農水省と厚労省の合同“査察”チームを送り、1ヶ月をかけて対日輸出施設を調査した。その報告書は7月27日に公開されている。
 ・農水省、厚労省, 2006-7-27

 すでに指摘してきたように、いくらマニュアルなどの書類上のチェックを行ったとしても、現場がそれを実行しなければ「画餅」に過ぎない。いくらでも、いつでも汚染は起こりうる。

 本書『ノンコンプライアンス・レコード』は、米国のパブリックシチズン(代表ラルフ・ネイダー)が情報公開法を使って公開させた食肉加工施設における違反記録(ノンコンプライアンス・レコード)のうち、副題にもあるように日本向けの施設に限定し、紙智子議員事務所が訳出、編集したものである。パブリックシチズンは2004年12月、米国農務省に対して公開を要求し、2005年8月になり、2004年1月から2005年3月までの違反記録1036件が公開された。

 この記録は、食肉加工の杜撰な現場実態を明らかにしている。タイソンフレッシュミート社レキシントン工場(ネブラスカ州)では、04年12月1日に特定危険部位である舌の偏桃部分を取り除かないで出荷しようとしたところを発見されている。その際の聞き取りで、米国農務省の通知直後は偏桃部分を取り除いていたが、すぐに作業を元に戻し、偏桃部分を残すように変更している。同月6日にも同じように偏桃部分を完全に除去せず梱包しようとしている現場が発見されている。このように、いくらマニュアルがしっかりしていたとしても、現場責任者からしてマニュアルを遵守していない状況が見て取れる。これでは特定危険部位の脊柱が混入するのも無理からぬことのようだ。

 米国の牛に関するトレーサビリティが機能していないことは、日本では“常識”だろう。米国のと畜現場では、牛の月齢が30ヶ月以上か未満かの判別を、その牛の永久歯の生え方で判断している。この歯の状況による月齢判断がいい加減に行われているかの例がいくつも記載されている。実際には10歳以上で歯が磨り減ってしまっているにもかかわらず、30ヶ月齢未満と判断されたという極端な例もある。

 30ヶ月齢以上と判断された牛には、何ヶ所にも30ヶ月齢以上を示すマークがつけられ、加工工程での扱いが30ヶ月齢未満の牛と異なる、ということになっている。しかし、取り替え消毒なければならない道具をそのまま使ったり、明らかな混入によりロットごと出荷保留措置が採られている例も多い。ただ、こうした出荷保留がその後、どのように処理されたのかについての記載はない。

 このレポートを読む限り、加工施設に常駐する米国農務省の係官は、加工現場で常時監視しているわけではなく、偶然に、あるいは巡回で違反現場に通りかかって摘発しているようにみえる。とすれば、このような違反は日常茶飯事であり、明らかになった事例は氷山の一角に過ぎないともいえるだろう。とすれば言うまでもなく、米国産牛肉に特定危険部位が混入している可能性が大きい、ということになる。

 米国産牛肉を食べる前に読むことをお勧めしたい。


 このコンプライアンス・レコードに関し、紙議員は2006年3月8日の参院予算委員会で質問している。この質疑の中で、紙議員の「原本を読んだか」という質問に参考人として出席した寺田食品安全委員会委員長は、

「原本は読んでおりません。私どもに手に入りました資料は、最初のファクトシートみたいな一枚のものと、それから、その後アメリカの農務省から出ました概要四ページのものだったと思います。」
と答え、さらに紙議員の「議論はしたか」という質問には、
「このノンコンプライアンスレコードにつきましては、八月二十四日のプリオン専門調査会で厚生労働省からその概要につきまして報告を受けまして、そのこと、内容自身につきましては議論はしておりません」
と答えている。一方、農水省は2005年8月23日に全文を入手していたこと中川農水相(当時)は明らかにしている。詳細な情報を入手していながら、わずか4枚の米国による「概要」で済ませていた厚労省、農水省の責任は大きい。