ヒト抗体を生産
1月1日の朝日新聞によれば、米国農務省やキリンビールの関連会社などの日米の研究グループは体細胞クローン技術により、プリオンタンパク質を持たない(プリオン・フリー)の牛を開発し、20ヶ月以上正常に成長したと発表した。
このプリオン・フリー牛は、体細胞クローン技術により、核を抜いた牛の受精卵にプリオン遺伝子の機能を失わせた牛の繊維芽細胞の核を移植し、これを雌牛の子宮内に戻して出産させ、05年2月に12頭生まれたという。このプリオン・フリー牛の脳の抽出液に異常プリオンを加えても、その増加や蓄積は起こらなかった。研究チームは現在、この牛に異常プリオンを直接、接種した実験を進めているという。
・朝日新聞, 2007-1-1 ・USDA Agriculture Research Services, 2006-12-31 ・【全文】Nature Biotechnology, 2006-12-31英国タイムズ紙は1月1日、この研究を評してBSEフリーの牛であったとしてもGM家畜を食べるということに対する消費者の懸念に勝つ必要がある、としている。現実的な選択としては、この牛による血清製造免疫グロブリンのような医療用のタンパク質生産でBSEを引き起こす危険を排除できるとしている。
・The Times, 2007-1-112月31日のBloombergによれば、このプリオン・フリー牛を開発したキリンの関連会社dearuHematech社のRobl社長の話では、同社はこの牛を利用してヒト抗体を生産しようとしているようだ。また、この牛の脳に直接異常プリオンを接種する研究が完了した後、BSEに対する免疫の有無について最終的に判断するという。米国農務省の発表では、少なくとも3年かかるだろうという。
・Bloomberg, 2006-12-31日本で発見された21ヶ月齢と23ヶ月齢のBSE感染牛は特異型ではないか、といわれている。BSEは、一般的には60ヶ月齢前後で発症している。米国農務省の少なくとも3年かかるという意味は、60ヶ月齢前後まで経過を見る必要があると判断しているものと思われる。ここで疑問となるのはプリオンタンパク質の働きである。プリオンタンパク質は、まったく無用なものなのだろうか。プリオン・フリーとしたことで、何も問題は出てこないものなのか。そして、そうした牛から生産される医薬品に問題はないのだろうか。
この件に関して、キリンやHematech社のサイトでの発表はまだない。
キリンなどはプリオン・フリー牛によるヒト用の医薬品生産を目論んでいるが、日本では、200種類以上の生物由来の医薬品が認められている。その中の約1割は、遺伝子組み換え由来のものである。2003年の薬事法改正により生物由来医薬品による被害に対して救済制度ができた。厚労省は生物由来の医薬品として、「生物由来製品」(主に動物に由来する原材料を使用した製品、別表1)と「特定生物由来製品」(主に人の血液や組織に由来する原材料を使用した製品、別表2)を指定している。
・生物由来製品 176種類
(うち遺伝子組み換えのもの22種類)
・特定生物由来製品 51種類
(うち遺伝子組み換えのもの3種類)