Reutersは5月16日、米国農務省動植物衛生検査部(APHIS:Animal and Plant Health Inspection Service)が、Ventria Bioscience社のヒトのタンパク質産生遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え米の商業生産を承認したと報じた。これによりVentria社は、カンサス州の3200エーカー(約1500ヘクタール)でGM米の商業生産が可能となる。Ventria社は、250エーカーで生産するとしている(別の報道では400エーカー)。
このGM米にはヒトの遺伝子が組み込まれ、リゾチームとラクトフェリン、ヒト血清アルブミンを産生するという。これらは、母乳に普通に含まれている。同社によればリゾチームとラクトフェリンは抗菌タンパク質であるという。このGM米は、乳幼児の下痢用の薬としての利用を見込んでいるという。
米国では昨年8月、バイエル者の未承認GM米(LLRice604)によるGM汚染が見つかっている。このGM汚染によりヨーロッパなどで米国産の長粒米の輸入禁止が相次ぎ、米国の米穀産業は大きな痛手を被っている。コメ生産者団体理事長は「この予想外の決定に驚いている。この決定はコメ生産者を不快にさせている」と語った。
米国農務省によるこのGM米の商業栽培に関する意見募集には2万通余りの意見が寄せられたが、賛成はわずか29通で、ほとんどは承認に反対するものであった。しかし、農務省は、480キロ以内にコメの商業栽培が無いことやVentria社の措置を評価し承認を決めた。Ventria社も、この商業栽培がバイエル社のGM汚染の状況とは異なるとしている。
・Reuters, 2007-5-17このVentria社のGM米は、2006年、ペルーで140人の乳幼児に対する不な治験が明らかになっている。この治験により2人の幼児がアレルギーを 起こしたという。
・GMWatch, 2006-6-15食品安全センター(Center for Food Safety)は5月17日、この承認が米国の食品供給の安全性に不要な危険をもたらすと警告している。この声明で同センターは、カンザス川の氾濫や竜巻によるこのGM米の拡散とGM汚染を危惧している。同時に、「発展途上国が最も必要とするものは、きれいな水と下痢を防ぐ基本的な公衆衛生施設であり、治療する既存の経口水分補給飲料へのアクセスの改善である。たとえVentria社のGM米が安全であったとしても、それは高価であり、十分に資金が投入されていない既存の費用効率のよい解決策からそらすものだ」と批判している。
同センターは4月24日、このGM米について『穀物への警告:製薬米に関する批判的検討』と題するレポートを公表している。これによれば、Ventria社は2003年以来4回にわたり、米国食品医薬品局(FDA)に対して「一般に安全と認められる食品(GRAS)」としての承認を求めて真性を繰り返してきたが、FDAはこれを却下してきているという。
・Center for Food Safety, 2007-5-17 ・Center for Food Safety, 2007-4-24Natureによれば、農務省は2006年、14件の医薬品もしくは工業用のGM作物の栽培申請を受け、うち10件を承認しているという。
・Nature, 2007-5-18