最終更新日:2011年1月2日
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2011年1月の農と食

2011.1.2 No.511
■有機農業を置き去りにする「環境直接支払い」

 農水省は来年度予算の一つに「地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む農業者に対して直接支援します」という画期的な環境直接支払制度を新設し、48億円を計上した。この制度では「環境保全型農業に取り組む農業者等に対する直接的な支援」の具体例として「有機農業の取り組み」をあげている。金額は別としても、環境直接支払いに踏み込んだことは大いに評価できるが、対象者をエコファーマーに限定しようとしていることから、有機農業者が対象外となり、置き去りにされようとしている。

 ●環境直接支払い制度とは

 今回新設される「環境直接支払い」は、従来個人への直接支払いを拒んできた農水省が方針転換したもので、10アール当たり8千円を国と地方で折半し、該当農家へ「環境保全型農業直接支払交付金」として支払うというもの。対象には「化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組とセットで地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む場合」と条件を付けている。農水省は「効果の高い営農活動」として、次の4つをあげている。

・カバークロップの作付け
・リビングマルチ、草生栽培の実施
・冬期湛水管理
・有機農業の取組

 しかし実際には、この条件が「エコファーマーの認定」に置き換えられ、来年度からの支給へ向けて該当農家などへの周知が図られている。

 ・農水省:平成23年度農林水産関係予算の主要事項

 ●より低い「エコファーマー」に組み込もうとする無理

 問題の「エコファーマー」という制度は、化学農薬や化学肥料の使用を前提とした慣行農業から、それらを削減することを目的としている。エコファーマーとして認定を受けるには、3つの技術(土づくり、化学肥料の使用低減、化学農薬の使用低減)について例示された削減メニュー(導入指針)から新たに導入する技術を選択し、計画を立てて、具体的に土づくりと化学農薬や化学肥料の削減を図ることが求められる。実際には、農業改良普及員による相談などを経て県に申請し、審査会の審査を受けることになる。

 導入指針で例示される導入技術は、化学農薬や化学肥料をどう削減するかという観点からの技術でしかない。それらの多くは、すでに有機農業で活用されている技術である。有機農業を実践してきた農家にとって、新たな技術が列挙されているわけではなく、特段「新たに導入する技術」とはなり得ない。特に、肥料も農薬も使わない自然農法のような場合、必然的に制度の枠外とならざるを得えない。現場の普及員の間では、「当然予想された事態」と言われているとも漏れ聞く。すでに神奈川県では、エコファーマーの認定を受けようと相談に訪れた有機農家が、「導入すべき技術がない」として実質的な門前払いを受けている。

 年度内にエコファーマーの認定を受けることができなければ、新年度から「環境直接支払い」は受けられない。しかし、エコファーマーの制度を知れば知るほど、その矛盾に気が付き、多くの有機農家があきらめているものと思われる。

 ●有機農業者を放置してきた制度的矛盾が原因

 2000年に有機JAS制度が導入され、公的に「有機農業者」として認知されることとなった。しかし、年間20万円にもなる認定費用(認定機関により異なり、より安い認定機関もある)を前に、多くの有機農業者が有機JASの認定を受けてはいない。年収300万円では、認定を受ける前にあきらめているのが実情でもある。あるいは、セット野菜などの形で消費者に直接販売している場合、認定によるメリットは何もないからである。現に有機農業ネットワーク神奈川では、有機JASの認定を受けている会員生産者は、わずか3%足らずに過ぎない。この率は、全国的にはもう少し上がると思われるが、どこからも公的に認められていない有機農業者が多数存在している、ということに他ならない。

 2006年の有機農業推進法の制定により、都道府県レベルで有機農業推進計画が策定され実施段階に入っているが、有機農業者としての認定については、あいまいのままである。制度的な不備のもとで、新たに導入するような目新しい技術のないメニューである導入指針に縛られた運用がなされるならば、制度の本来の趣旨に逆行してほとんどの有機農業者が「環境直接支払い」の制度の枠の外に置かれるという、笑うに笑えない状況が現実となる。早急に現実と乖離した制度設計をやり直す必要がある。