断ち切られた「つながり」再生への可能性
9月18日、全国各地の生産者、消費者、提携関係者、生協関係者、自然食品販売関連流通関係者が東京・品川に集まり、現在の放射能汚染と暫定規制値についての寄合を持った。このほど、その議論は「品川宣言」としてまとめられた。
品川宣言(全文)
この品川の寄合は、生産者と消費者とともに、その間をつなぐ生協を含む流通関係者が一つのテーブルに集まり意見を交わした。当日は、朝10時から17時近くまで、放射能汚染を巡り、暫定基準値だけでなく多岐にわたり議論されたが、議論を集約できなかった。
議論の中では、非常に緩いといわれる暫定基準値について、汚染食品拡散の原因であり認められないことでは一致した。しかし、参加者が納得する具体的な数値を提示するまでには至らなかった。その後のメーリングリストによる議論で、どのような汚染であっても「放射能汚染農水産物」と呼び(宣言10)、生産者は自らの判断で、その生産を中止する責任を負うと明確にした(宣言11)。
そして、この汚染農産物と生産中止による損害は東電が賠償するものとした(宣言10,11)。流通にあっては「汚染農水産物とその加工食品は、販売供給されてはならない」とその責任も明確にした(宣言12)。このような生産者・流通の「責任」を保障するものとして、放射能測定値は「1桁ベクレルまですべての公表されなければならない」とし、それらの費用は東京電力の負担であるとした(宣言15)。
品川宣言は、汚染の可能性を前提としながらも、その情報公開と透明性を担保するべきだという共通認識がベースにある。これが、生産者と消費者の「つながり」再生のキーポイントである。
宣言が、その後書きで述べているように、原発事故によって環境へ放出された放射能は、「安全」や「安心」がキーワードであった有機農業とその流通を危機に追い込んでいる。
そのような意味で、福島第一原発から放散された放射性物質への重い不安感は、人々すべてに分かちあわれてしまっています。
有機農業、あるいは有機農産物によってきた、人と人との「つながり」が断ち切られてしまった。その上で、放射性物質への恐れと不安感は「共有」せざるを得ない。作る側の不安、供給する側の不安、食べる側の不安が、相互不信を生じさせている。
東京電力福島原発事故により、福島県は言うに及ばず、首都圏の有機生産者も大きな打撃を受けた。一つには、直接的な田畑の放射能汚染である。もう一つは、長年にわたって築いてきた消費者との直接的な関係が断ち切られたことである。放射能汚染が顕著になり、「提携」の消費者が「放射能はいらない」と離れていった。福島県では、その穴を流通が埋めたという。事故原発から200キロも離れた首都圏でも、直接配達や宅配によって有機野菜を購入していた消費者の有機離れも生じている。ある有機農家では、3割余りの消費者が止めたという。原発事故によって断ち切られた生産者と消費者の「つながり」は、どのようにして再生できるのか。作らざるを得ない生産者と、食べることを止めざるを得ない消費者が、不安と不信を乗り越えて、ともに手を携えこの状況に立ち向かうことは、果してできるのか。品川宣言がひとつの可能性を示している。
品川宣言では、宣言に同意の署名を募っている。
署名送付先 kobesc at ai.wakwak.com
「品川宣言」 2011年9月18日
私たちは、福島第一原子力発電所の事故後、国民生活への重大な影響を憂慮し、事故の終息を見守ってきました。また、その工程にあって、わが国有数の一流企業である東京電力株式会社や政府に、国土や国民の命を第一義的に守ってほしいと願ってきました。しかしながら私たちの期待は見事に裏切られ今日に至っています。
2011年9月18日、全国の市民・農家・水産加工・食品団体員など有志が東京都品川区南品川5-3-20、品川第二地域センンター会議室に集り、今回の事故とこれまでの経過について討議しました。
そして、私たちは、今回の事故並びにその経過が、「放射能放散公害事件」であることを再確認しました。そこには、明らかな加害者と、放射能にさられている被害者が存在しています。
しかし、事件発生より半年が経過してもなおその起因者である東京電力に、その責任を果たそうとする姿勢は見られません。
また、政府は一体だれのためにあるのか──。
ここに集った私たちは、大きな憤怒を持って次の結論に達したことを宣言します。
1.避難対象地区について
まず、2011年3月11日発生の福島第一原子力発電所事件から半年を経過した今なお、放射線に汚染された環境下に人々が放置されていることに対して断固として抗議する。
私たちは、「放射線管理区域」(1.3ミリシーベルト/3ヶ月)レベルの環境下にさらされているすべての住民を、直ちに安全な地区に避難させることを、放射能を放散した東京電力と政府に要求する。
なお、ここでは避難させる義務は上記「放射線管理区域」レベルとするが、市民の側の避難の権利の基準は、「一般公衆の線量限度」(ICRP・国際放射線防護委員会)基準の1ミリシーベルト/年以上であり、この環境下からの自主避難の権利は認められなければならない
2.棄民的措置による健康被害の責任について
ゆえに、1ミリシーベルト/年以上の環境下に無作為に人々を留め置くことは、人身に危害を加える傷害行為、ないしは殺人予備行為にも他ならない。上記環境下にたとえ一時期であったとしても置かれた福島県民をはじめとする人々に今後発生する健康被害については、東京電力並びに政府の責任であることを宣言する。
3.避難に関する費用について
避難に関する一切の費用は東京電力が負担すること、すでに自主避難している場合にも請求権は認められること、その上で、避難先は避難すべき当事者の希望に添うこと、以上の権利を担保する。
また、従来からの地域コミュニティーの避難先での維持など、具体的な避難誘導等については、国・地方公共団体が参加する公共事業体によって、避難者の立場にたって進められるべきであり、かりにも私企業を参入させ、利益優先・経費出し惜しみを許してはならない。
4.「生業」(なりわい)を
破壊された住民被害について
特に一次産業者は、その生業が農地や漁場と不可分であり、農業者にあっては農地や山林、水利権等、漁業者にあっては漁港や漁場、漁業権等の確保が可能であることを前提に、北海道、中・西日本などの汚染されていない土地を避難移住先に選定する必要がある。
その上で各避難者の生活再建に関する一切の費用も東京電力により補償されなければならない。
5.自営産業者に対する賠償について
一大食料生産地帯を放射能で汚染した東京電力の責任は重大である。
避難する自営業者の一切の避難移転費用と、生産休止期間と生産が再開したのちも事業が福島第一原子力発電所事件以前の所得水準に戻るまでの期間の損害を賠償しなければならない。
それは、例えば、酪農・畜産業及び水産養殖業においては、生産、出荷が可能になるまでの家畜の飼育経費等、魚介類や海藻の養殖経費等、また、その間の生産者の生活費用等の一切の費用のことをいう。
6.すべての賠償・補償について
東京電力が負うべき移転費用、生活再建費用、損害賠償費等必要な支払いについては、速やかに行わなければならない。支払いについては、定める支払義務発生日を越えた日数に応じて延滞遅延金年10%(電気料金遅延金と同率)を上乗せされなければならないのは当然のことである。
7.高汚染地区の農地回復に
従事しようとする者について
放射線リスクが適度に低いと考えられる年齢の農業者が、高汚染地区に立ち戻って農地回復を希望する場合、当該の地は相当程度の人口密度の希薄化が考えられ、また、放射線曝露を最小限度にとどめるために、清浄な飲食物の配給とその他の行政・医療サービスの供給は続けられなければならない。
放射性物質除去のための菜種・アカザ・牧草類などを含む生産物は、当面低レベル放射性物質であるから、東京電力によって適正な生産者価格で買い取り補償されなければならない。
東京電力は補償買い取りした生産物を厳重管理し、市場に環流させてはならない。
8.食品暫定基準値について
現行の食品「暫定基準値」はなんら正当な根拠を持たない。私たちは決して容認できるものではない。
暫定基準値は当該汚染地区からの避難が完了するまでの間、飢え死にすることを防ぐための緊急避難的な数値である。当該汚染地区外にまで適用することや、既に半年を経過した今も「暫定」期間とすることには無理がある。いたずらに引き延ばすことは許されない。
また、この緩い暫定基準値こそが、汚染農水産物やその加工食品を生産し、拡散させる原因となっており、直ちに暫定基準値は撤廃されなければならない。
私たちは、すべての国民に、暫定基準値を適用しようとすることが無意味・無効であることを宣言する。
9.外部被ばくと内部被ばくの積算について
私たちが受ける放射線量は体内に摂取される飲料・食品・呼吸吸入されるダストなど、いわゆる内部被ばくと外部被ばく線量の総量と理解されるべきである。
食品などの暫定基準値は年間摂取量を計算して、年1ミリシーベルトから空間放射線量を減じた数値以内に設定されるのは自明のことである。
現行の500ベクレル/kgと200ベクレル/kgの暫定基準では、年間17ミリシーベルト〜22ミリシーベルトに積算されるとの見解があり、撤回されたはずの20ミリシーベルト/年基準に対応するものであり、認められない。
(例えばドイツ放射線防御協会による「日本への提言」では、0.3ミリシーベルト/年を基準に食品を「大人8ベクレル/kg、子ども4ベクレ/kg」としている。)
10.汚染された農水産物について
少しでも放射能に汚染された農水産物を「放射能汚染農水産物」と呼び、「低レベル放射性廃棄物」のひとつとする。
低レベル放射性廃棄物は、発生原因者東京電力によって回収され再度の環境汚染を防止するため密閉処理・管理されなければならない。その場合、東京電力は、放射能汚染農水産物を適正な生産者価格で買い取り補償しなければならない。
11.他者に汚染を拡大しない義務と責任について
線量の大小にかかわらず放射能汚染農水産物が生じたとき、あるいは放射能汚染農水産物が生じるおそれのあるとき、生産者は自らの判断で生産を中止する「食べ物」生産者としての責任を持つ。
福島第一原子力発電所から放散された放射性物質による汚染被害物のすべて、および、汚染が予測されての生産休止による操業損害は、東京電力が損害賠償しなければならない。
12.販売供給者の義務と責任について
福島第一原子力発電所から放散された放射性物質による汚染農水産物とその加工食品は、販売供給されてはならない。
その線量の大小にかかわらず、低レベル放射性廃棄物は、市民に対する加害物質であり、その供給は、人身に危害を加える傷害行為、ないしは殺人予備行為に他ならない。
13.汚染された農水産物や瓦礫の拡散について
農水産物に限らず、放射能汚染された瓦礫・土壌などの移動は汚染の拡散であり、一切認められない。
すでに福島第一原子力発電所敷地外へ放散された放射性物質及びその付着物は発生原因事業者東京電力の責任で回収されるべきである。
上記瓦礫をはじめ、表土や上下水汚泥、焼却灰・スラッジ・腐葉土・堆肥等は、放射性廃棄物として回収され、発生地である福島第一原子力発電所敷地内に戻され、再度の汚染原因にならないように密閉処理・管理されなければならない。
14. 放射能汚染農水産物の
産地偽装や希釈的な拡散について
さらに、市民の正常な判断を妨げる産地ロンダリングは禁止されなければならない。
東日本の産地県の生乳を、地域を越えて運搬し、遠方府県乳業工場で産地県を明かさずに製造販売していることが、名神自動車道滋賀県内瀬田での生乳タンクローリー車横転事故ではからずも発覚した。
また、東北地方太平洋岸漁場で捕獲された水産物を静岡県や三重県などの遠隔県漁港で水揚げする、という例もある。
正当性のない暫定基準値であればこそ、放射能に汚染された食品を家族に食べさせたくない、食べたくないとする市民が、食品危険度の判断をするために、産地は正確に表示されなければならない。
15.汚染数値の公開について
当然、現行「暫定基準値」以下の汚染数値も、1桁ベクレルまですべて公表されなければならない。地方自治体などの公共団体による測定は、ゲルマニウム半導体検出機などを使用し、精緻な検出レベルを保証しなければならない。
また、その検出の必要性が今回の福島第一原発の放射性物質に起因する場合、その検出検査料金は東京電力に請求されるべきであり、市民・生産者・取扱い販売者に負担させてはならない。
以上のことを私たちは真剣に討議し、ここに宣言することにしました。これらは決して難しいことではなく、子どもや子どもを守りたい大人には、とても明快なことです。
今回の福島原発事故の問題は、本当は意外にシンプルです。
永遠に未熟な技術を振り回し、多くの人々を傷つけ、生命の危険にまで追いやっています。
まだそれは目に見える形では現れていないかも知れませんが、やがては誰もが知ることになるでしょう。
原子力に関わる人達が小賢しい理屈で問題を複雑にすり替え、当然にとらなければならない責任を有耶無耶にしようとしているだけなのです。
私たちは、今もっとも危険なところにいる人々に、「早く逃げろ!」と大声で叫びたいのです。
その危険にさらされている人々を一番に助けなければならない者たちが、他人事のように傍観していることが許せないのです。
そして、さらに私たち自身もまた、放射性物質で汚染させた農水産物を生産してしまったり、それを他人様に間違って食べさせてしまったりすることを恐れているのです。
そのような意味で、福島第一原発から放散された放射性物質への重い不安感は、人々すべてに分かちあわれてしまっています。
さて、私たちはこの宣言を踏まえて、「3.11福島原発放射能放散事件」から人々の「いのち」を守る「福島原発事故からいのちと食を守るネットワーク」を結成し、人々の「いのち」と「たべもの」の安全を守るためのあらゆる提言、運動を行うことを確認しました。
すべての市民の皆様に、私たちの「ネットワーク」への連帯とご賛同をお願いします。