2月13日、参院議員会館で「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク(略称:食農ネット)」主催のメディア懇談会・院内学習会「生物多様性が危ない!忍び寄る遺伝子組み換え汚染」が開かれた。四日市港周辺で顕著な遺伝子組み換えナタネの自生問題の報告と、生物多様性に関するGM作物承認について農水省、環境省との意見交換が行われた。この中で、農作物に対するGM汚染への国の対応のなさが浮き彫りになった。
意見交換に先立ち、食農ネット共同代表の河田昌東氏が、四日市港周辺の自生遺伝子組み換えナタネの深刻化している現状について、昨年11月の市民による抜取隊の映像も交えて報告した。
四日市港周辺には、製油所までの輸送ルート沿いに、こぼれおちたGMナタネが自生している。河田氏は、2004年から始めた調査と、2006年からの抜き取りにより分かってきたGMナタネの多年草化、ラウンドアップとバスタの両方に耐性のある個体、アブラナ科の雑草やブロッコリーとの交雑個体の出現などの問題を指摘した。
近頃では、簡易検査でGM遺伝子が不検出の個体が、PCR検査でGMナタネと判明する「隠れGM」個体の出現で検査が難しくなっている現状についても報告された。畑で保存しておいた簡易検査で非検出だがPCR検査でGMと判明した個体に除草剤を散布したところ、100倍の希釈液でも枯れないものも見つかっているという。分子生物学が専門の河田氏は、簡易検査で検出されない原因として、GMナタネが世代交代を繰り返す中で、一部の遺伝子が変化していることによるものとみている。
・遺伝子組換え食品を考える中部の会●GM承認に農作物汚染は考慮しないと農水省
四日市港周辺の状況などを踏まえ食農ネットは、GM作物の栽培承認の条件と農作物の関係について、7項目の質問を農水省などに提出していた。この質問書に農水省と環境省が答える形で、意見交換が行われた。
GM作物の栽培についての承認は、生物多様性条約の国内法であるカルタヘナ法に基づき、農水省と環境省が共同して行う生物多様性総合検討会での審査を経ることになっている。カルタヘナ法で対象とされるのは野生の動植物だけであり、在来野菜はもとより、すべての農作物が影響評価の対象から除外されている。食農ネットは質問書で、農作物を評価対象に含めるよう求めていたが、農水省は、農作物が「人の手がかかっていて自然ではない」として対象とするつもりはないと答えた。
さらに、非GMの畑が隣接するGM作物で汚染されたとしても、GM作物承認上は何ら問題となるものではないとも言明した。オーストラリアでは、隣接するGM畑による汚染でによって認証が取り消された有機農家が、隣の農家を相手にした裁判が進行している。農水省からは、こうしたことが日本で起こった場合でも、当事者同士で解決するものだとの答えがあった。また、農水省が提示している隔離距離は、あくまで強制力のないガイドラインにすぎず、具体的な規制は都道府県ごとの条例にゆだねられるものだともした。同時に、将来的なGM作物栽培の開始に向けて、どのような法的規制が必要か調査している段階とも述べたが、そのロードマップは明らかにしなかった。
現在、花卉(バラ、カーネーション)を除き89品種のGM作物が、カルタヘナ法に基づいて一般開放系での栽培が承認されている(2013年12月現在)。
作 物 | 承認品種数 |
---|---|
アルファルファ | 3 |
ナタネ | 10 |
ダイズ | 9 |
テンサイ | 1 |
トウモロコシ | 65 |
パパイヤ | 1 |
バラ | 1 |
カーネーション | 8 |
●自治体のGM栽培規制は11都道府県だけ
しかし、農水省の期待する都道府県で罰則付きのGM作物栽培規制条例を制定してるのは、北海道、新潟県、神奈川県の3道県にすぎない。東京都などのように指針・ガイドラインでの対応でも、わずか8都府県しかないのが実情である。これでは、GM作物栽培を強行することも可能だということだ。規制のない自治体でGM作物栽培が行われ、その結果としてGM汚染が起きた場合、どのように収拾されるだろうか。国の承認を盾にした汚染した側より、汚染により損害を受けた側が圧倒的に不利な状況に追い込まれるのではないだろうか。
このGM汚染への無策ぶりの裏には、国としてGM作物の栽培を想定していないのかも知れない。あるいは、GM汚染が起きたとしても、その影響がかなり限定的なもので収まると踏んでいる可能性もある。
道 県 | 規 制 内 容 |
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北海道 | 一般栽培は知事の許可、試験栽培は届出 |
新潟県 | 一般栽培は知事の許可、試験栽培は届出 |
神奈川県 | 開放系栽培の計画届出 |
都府県 | 規 制 内 容 |
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岩手県 | 一般圃場での栽培中止要請 |
宮城県 | 栽培計画書の事前提出 |
茨城県 | 開放系栽培の情報提供 |
東京都 | 栽培計画書の事前提出 |
滋賀県 | 栽培の自粛要請 |
京都府 | 交雑混入防止措置の義務付け |
兵庫県 | 生産・流通上の混乱防止の未然防止の指導 |
徳島県 | 交雑混入防止措置の義務付け |