米国環境保護庁は10月16日、ネオニコチノイド系農薬による大豆の種子処理が、経済的に無意味であるとの分析結果を公表した。あらかじめネオニコ系農薬のイミダクロプリド、チアメトキサムとクロチアニジンで処理された種子を使ったとしても、同様の効果を持ついくつかの農薬を葉面散布することで無駄なことと結論している。大豆の種子処理は栽培農家に利益をもたらすことはない、と述べている。この分析は大豆に限定している。
査読つきで公表された分析によれば、米国では、ネオニコ系農薬の種子処理にエーカー(約4反)当たり平均7.5ドルのコストがかかっている。仮に種子処理せずに、成長後の葉面散布とした場合、最新の殺虫剤であるフルベンジアミドがもっとも費用がかかり14ドルである。この農薬処理による収量には差がなく、収益差があったとしても1.7%に過ぎないとしている。しかし、フルベンジアミドはあまり使われておらず、もっとも可能性のないシナリオであり、収益から見た種子処理には実質的に意味がないとしている。
種子処理 | 葉面散布 | |
---|---|---|
収量(bu/A) | 45 | 45 |
価格($/bu) | $12.03 | $12.03 |
収入($/A) | $536 | $536 |
殺虫剤費用 | ||
種子処理 | $8 | - |
葉面散布 | - | $14 |
その他費用 | $173 | $173 |
費用合計 | $180 | $186 |
収 益 | $356 | $350 |
収 益 差 | +1.7% |
本文
農薬に反対している団体 Beyond Pesticide は、「このレポートは、承認する前に、真に必要で、効果のある化学製品であるかというとても重要な問題を、EPAとしてはっきりさせることが必要」とする、至極当然な見解を明らかにした。メーカーの申請通り形式的な審査で承認するだけでは、規制機関の名に値しない。
・Beyond Pesticide米国政府は6月20日、ミツバチなど花粉媒介生物(ポリネーター)の健康に関する特別委員会(Pollinator Health Task Force)を立ち上げ、180日以内に全米レベルの花粉媒介生物に関する戦略を策定すると発表した。7月には米国魚類野生生物局(Fish and Wildlife Service)が、太平洋地域の野生生物保護区で、2016年1月までに、種子処理を含むネオニコ系農薬の使用全廃するとの方針を公表している。
今回のEPAの分析結果の公表も、この一環と思われる。10月始めに中間的な発表があるとも見られていたが、具体的には動きが見られなかった。今のところ、米国のネオニコ規制の姿は、まだ見えてこない。EUは予防原則に基づいた規制を打ち出しているが、米国の規制もEU並みまで踏み込むのかは分からない。米国の規制の内容は、“農薬堅守”の農水省の方針にも大きな影響を与えるのではないか。
ネオニコ規制に消極的な農水省には、ここはぜひ、ネオニコ以外の種子処理も含めて、EPAのような分析を明らかにして欲しい。
効果がないとの見解が明らかになる中、住友化学は7月、米国で大豆種子処理用のクロチアニジンと殺菌剤エタボキサムの混合農薬を発売したばかりだ。同社は、ネオニコ系のクロチアニジンによる種子処理用農薬を、事業拡大の柱の一つして位置づけている、と明らかにしている。
・住友化学, 2014-7-16・農業協同組合新聞, 2014-7-18
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