
道民の8割は栽培に懸念
国際的な遺伝子組み換え推進団体の国際アグリバイオ事業団は4月22日、北海道農民協会が50名の農民の署名をつけて、北海道立総合研究機構に遺伝子組み換え作物の試験栽培実施の要請書を提出したと報じた。こうした遺伝子組み換え作物栽培への動きは、2003年に明らかになった「バイオ作物懇話会」(長友勝利代表)による全国各地で行われたモンサントのラウンドアップ耐性GM大豆の栽培以来のこと。要請を行ったとされる「北海道農民協会」がどのような組織であるかは明らかでない。
北海道農民協会は4月7日、北海道が100%出資の地方独立行政法人である北海道立総合研究機構(略称:道総研)へ要請書を提出し、大豆、トウモロコシとテンサイを含む遺伝子組み換え作物の試験栽培を要請したとしている。
・ISAAA, 2015-4-22昨年の北海道による道民意識調査では、遺伝子組み換え作物の栽培自体を不安視する人が8割を占めている(「不安に思う」48.0%、「やや不安に思う」31.8%)。こうした道民の意識を考えれば、この要請が容易に理解されるとは考えられず、試験栽培といえども実施は難しいのではないか。
北海道知事には、条例で遺伝子組み換え作物の試験や栽培について中止命令権がある。2005年に公布された北海道の遺伝子組み換え作物栽培規制条例で知事は、試験栽培に対して「届出のあった試験研究機関に対し、必要に応じて勧告、栽培中止命令、必要な措置を命令」が可能である。高橋知事は、泊原発再稼動容認の姿勢をはっきりと示している。このような知事が試験栽培を 認める可能性が全くないとはいえないだろう。
今回の要請は、道民の遺伝子組み換え作物栽培への懸念に対する観測気球、あるいはキャンペーンなのかもしれない。しかし、今後の動きには注意が必要だ。
・北海道 ・北海道, 2014-11今回の要請は、冨田房男氏(日本バイオテクノロジー情報センター代表)主導で行われた模様だ。冨田氏は、今年1月1日付けの日経バイテクOnLileのインタビューで、「着実に2015年こそ北海道で組換え作物が少なくとも試験栽培され」「2016年には、遺伝子組換え作物の栽培にこぎ着けたい夢見ている」と、GM作物栽培実現への期待を語っている。
冨田氏はまた、遺伝子組み換え作物栽培推進団体である北海道バイオ産業振興協会の理事・名誉理事長であり、2003年より自身が代表のA-HITBio社より、GM大豆を使った納豆を販売している。
・日経バイテクOnLile, 2015-1-1 ・(有)A-HITBio, 2003-11-28日本でGM作物が商業栽培される可能性は、コメ以外はほとんどないのではないか。TPPやEPAによる“貿易自由化”により、安いトウモロコシや大豆が輸入されることになれば、日本でのGM作物栽培は、ますますその可能性が少なくなる。GMトウモロコシを、年間1000万トン以上輸入している日本に期待されているのは、栽培国ではなく消費市場としての役割だろう。コメ以外のGM作物が栽培されるとすれば、それは“広告塔”としての役目しかない。
【北海道GM作物栽培規制条例】
2003年5月に北海道農業研究センターが、札幌市内の同センター敷地内の開放系水田でGMイネの試験栽培を発表。危惧した市民や農家が事前説明会に集まり騒然となった。結局、GMイネの田植えは強行されたが、GM作物栽培規制条例の制定を求める声に押され、ガイドラインを経て2005年罰則付きの条例が制定された。
【バイオ作物懇話会によるGM大豆栽培】
バイオ作物懇話会(長友勝利代表)は、2001年からモンサントの除草剤ラウンドアップ耐性GM大豆を無償で提供して、全国各地の一般農地で栽培させてきた。実態は明らかではないが、モンサントのGM種子の無償提供のみならず、農地の使用料などを支払っていて、モンサントとの関係が疑われた。
2003年7月、茨城県谷和原村(当時)で開花させることが
明らかになり、緊急に花粉飛散防止行動がとられた。
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