米国メリーランド州はこのほど、あらゆる種類のネオニコチノイド系農薬の農業用を除く屋外使用を規制するポリネーター(受粉媒介生物)保護法を可決し、知事も異議を唱えず州法として成立したという。この州法は、個人による購入禁止禁止と屋外使用の禁止に限定しているとはいえ、米国で初のネオニコ系農薬規制となる。
メリーランド州法は、2018年1月1日より、小売店での販売と個人の屋外での使用を禁ずるもので、農民や農業労働者、獣医は除かれる。また、ペット用のノミ駆除剤や室内用は規制の対象外となっている。また、違反には250ドルの罰金が科せられる。
あわせて、米国環境保護庁(EPA)が進めているイミダクロプリドなどの評価が終わり次第、同州農務省に評価結果に応じた措置をとることも求めている。
対象となるネオニコ系農薬は次のように規定していて、今後、新たに市場に出てくるネオニコ系農薬も規制できるようになっている。
- イミダクロプリド
- ニチアジン
- アセタミプリド
- クロチアニジン
- ジノテフラン
- チアクロプリド
- チアメトキサム
- その他のネオニコチノイドとして指定される化学製品
ネオニコ規制を求めて運動してきたラス・ベルリン(メリーランド農薬教育ネットワーク事務局長)は、この州法成立に「歴史的な瞬間」であり、「ホワイトハウスやEPA、議会が、これまでの対応で十分とはいえないというメッセージ」だとコメントしたという。
・Maryland government ・Beyond Pesticide, 2016-5-27米国では、オバマ大統領は2014年6月、花粉媒介生物(ポリネーター)の健康に関する特別委員会を立ち上げ、180日で対応策を策定するとぶち上げた。しかし、米政府は、予定を大きく遅れて翌2015年5月、ミツバチの群れの消失を経済的に持続可能なレベルに引き下げる、オオカバマダラの個体数の回復、花粉媒介生物の生息地として280万ヘクタールを回復させるといった対応策を示しただけで、劇的な対応策は示さなかった。米国環境保護庁は2015年4月、イミダクロプリドなどネオニコ系農薬4剤について、新規データの提出とリスク評価完了まで、新規の用途登録や変更を停止した。
しかし、米国のミツバチの群れの消失は13年−14年以降、年々、増加している。米国のミツバチの群れは15年から16年にかけて44.1%が消失した、と米国の調査団体 Bee Informed Partnership が5月10日に公表した。養蜂家は、おおよそ15%の群れの消失を許容できるとしているが、この1年間の群れの消失、その約3倍に達している。はっきりした原因は寄生虫であるが、農薬や土地利用の変化による栄養失調も考えられるとしている。この1月にEPA(米国環境保護庁)は、ネオニコ系農薬の一つであるイミダクロプリドがミツバチに有毒であるとする、予備的なリスクアセスメントを公表している。今回の調査はそこまでは踏み込んで分析していない。米国政府の対策が効果的ではないことを示している。
米国の農業における受粉の経済価値は100億ドルから150億ドルに達していると推定されている。アーモンドはほぼ100%が養蜂ミツバチによるという。
・Bee Informed Partnership, 2016-5-10米国政府が抜本的な対策を取りえていない中、メリーランド州のように、自治体レベルでのネオニコ系農薬規制の動きがでてきている。大手ホームセンターなどでも、ネオニコ系農薬の販売を中止する動きがでてきている。内容に差があるものの、「先進国」が官と民とが規制強化に動くの中で、日本だけが規制緩和に向かっていて、異様な状況といえる。
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