国立環境研究所は6月3日、妊娠期から授乳期に至る発達期にネオニコ系農薬の一つのアセタミプリドに曝露された雄マウスは、成長後不安行動異常などの各種行動異常を示すことを明らかにしたと、スイスの専門誌に発表した。ネオニコ系農薬の害は、ミツバチ減少の原因物質として懸念されているが、人の健康にも悪影響をもたらすものとして考える必要がある。
ネオニコ系農薬は昆虫だけでなく、ほ乳類などの脳の発達に悪影響を及ぼす可能性も懸念されている。研究チームは、妊娠期から授乳期の母親マウスにアセタミプリドを経口投与し、その母親から育った仔のマウスが成長してから、行動にどのような影響が現れるのかについて検討を行った、としている。
実験は、妊娠中期の妊娠6日目から離乳直前の出産後21日目まで、母親マウスに水に溶かしたアセタミプリドを経口で1日体重kgあたり10mg(高用量群)と1mg(低用量群)の用量で35日間続けて投与。子どものマウスが成長してから、空間学習行動、性行動、攻撃行動、不安行動など、どの行動に特に影響が現れるか検討した結果、雄のマウスについてだけ、対照群と比べて行動に異常が見られたとしている。
この行動影響が現れた原因に関する知見などは得られておらず、国立環境研究所では引き続き検討を進める予定としている。
発表はまた、なぜ雄に影響が出やすいのか、そのメカニズムの解明が必要で、今後、ヒトの通常の曝露量に近い、より低い用量設定での曝露も行うなど幅広い視点から注意深く検討する予定としている。
・国立環境研究所, 2016-6-3 ・Frontiers in Neuroscience, 2016-6-3厚労省は15年5月、クロチアニジンとともにアセタミプリドの残留農薬基準を緩和している。14年9月の食品安全委員会の評価では、一日摂取許容量(ADI)を0.071 mg/kg体重/日、急性参照用量(ARfD)を0.1 mg/kg体重に設定した。この評価を元に残留基準値が設定された。
・食品安全委員会農薬専門調査会, 2014-9 ・残留農薬基準値食品安全委員会は、今回の研究結果=新たな知見を受けて、厚労省の諮問を待たず、自主的にアセタミプリドの毒性評価を見直す必要があるだろう。
黒田洋一郎氏(環境脳神経科学情報センター)らはこれまでに、有機リン系農薬と並んでネオニコ系農薬も、脳の神経系にに影響を及ぼし、発達障害増加の原因と示唆されると警告していることと、今回の研究結果を重ね合わせれば、予防的には、少なくともこうした時期には、農薬散布された農産物や加工食品の摂取はできるだけ少なくすることが必要だろう。ネオニコ系農薬のような浸透性農薬は、野菜の内部に浸透していて、洗っても落ちることはないからだ。摂取を減らすには、ネオニコ系農薬で汚染された食品をできる限り食べないことに尽きる。
● EUでは毒性評価を下げるよう提案
ネオニコ系農薬規制を強めているEUでは14年12月、欧州食品安全機関(EFSA)が、ネオニコ系農薬のアセタミプリドとイミダクロプリドについて、木村-黒田純子氏らが12年2月にPLOS Oneに発表した、ネオニコ系農薬のラットへの影響に関する研究結果を検討した結果、胎児や幼児の発達中の脳や神経系に影響を与えるとして、摂取許容量の引き下げを提案している。
一日摂取許容量(ADI) mg/kg体重/日 |
急性参照用量(ARfD) mg/kg体重 |
|
日本 | 0.071 | 0.1 |
EU基準 | 0.07 | 0.1 |
EFSA提案 | 0.025 | 0.025 |
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