毎日放送は6月13日、奈良県立医科大学の講師が3年間にわたって、遺伝子組み換え大腸菌を不活化処理せず下水に垂れ流していたと報じた。この報道を受けて同大学は16日、経過とともに、問題のGM菌は死滅し、環境に影響することはないとする報告書を公表した。翌17日には、田辺三菱製薬の子会社バイファが4年4ヶ月にわたって、遺伝子組み換え酵母菌を不活化処理を完全にせずに下水に流していたとして厚労省が厳重注意したと発表した。どちらのケースも、最低限の法的規制すら守らなくてもよいという、遺伝子組み換えに携わる関係者のモラルの低下を示している。
こうした遺伝子組み換え菌や植物の漏出・自生は今年になってこれで5件目と異常な状況となっている。一時的に重なって明らかになっただけでも問題だが、氷山の一角が露呈した構造的な問題であれば、より深刻な状況といわざるを得ない。
・3月 熊本大学
・5月 奈良先端科学技術大学院大学
・6月 奈良県立医科大学
・6月 (株)バイファ
● 奈良県立医大学 GM大腸菌をそのまま下水に流す
奈良県立医科大学で、3年の間、実験に使った遺伝子組み換え大腸菌を不活化(死滅化)処理せずに下水に流して処理していた、と毎日放送が6月14日報じた。同大学は3月、文科省に報告したとしていた。
この報道を受けて6月16日、奈良県立医科大学は報告書を公表した。報告書は、問題の遺伝子組み換え大腸菌を垂れ流していた講師は、カルタヘナ法違反であることを承知の上で、13年4月から今年3月までの3年間、人の少ない時に月1、2回流していたとしていて、確信犯だったとしている。また、この問題が発覚したのは、講師の垂れ流し行為を目撃したという通報が発端であったいう。その後文科省に報告し、4月に文科省の調査を受けているとしている。
報告書はまた、講師が実験に使った大腸菌株は毒素を作らず、病原性はなく、組み込みに使ったプラスミドも病原性、伝達性はないとしている。最終下水処理場の処理で、問題のGM大腸菌が死滅することを検証実験で確認したともしている。
・毎日放送, 2016-6-14 ・奈良県立医大, 2016-6-16● 4年4ヶ月 不活化せずGM酵母を下水に垂れ流し
厚労省は6月17日、田辺三菱製薬の子会社バイファ(千歳市)が4年4ヶ月にわたって、遺伝子組み換え人血清アルブミンの製造に使用したGM酵母菌を不活化処理せずに下水に流していたとして、再発防止のための措置を徹底するよう厳重注意処分にしたと発表した。
バイファの発表では、2011年10月の製造ロット分から微量の菌を検出し、13年8月にGMピキア酵母菌と同定したものの、社内の安全委員会でGM菌であったとしてもカルタヘナ法に抵触しないと示威的な判断を決めたとしている。しかし、その後もGMピキア酵母菌を検出したため、16年2月厚労省に報告したとしている。
その上でバイファは、次のように釈明している。
製造工程において不活化された廃液は、排水処理の過程でも不活化され、弊社工場敷地内を含め工場外に排出される排水からは組換え体は検出されておりません。従いまして、住民の皆様及び環境(生物多様性)への影響はないものと判断しております。
バイファは、不活化処理工程の見直しと、仮にGM菌が残ったとしても完全に不活化ができるように新たな熱処理装置を導入するとしている。また、カルタヘナ法への理解を深める教育訓練を定期的に実施するともしている。
厚労省は問題のGMピキア酵母について、特殊な培養条件以外では増殖が制限されること、病原性がなく、ヒトに対する危険性はなく、環境に及ぼす影響もないとしている。また、敷地内から菌が検出されていないことから、環境への影響はないとしている。
このGM菌の垂れ流しは、最低限の法的な規制すら守ることができない、医薬品製造企業とも思えなようなバイファの管理者のモラルが低下しているといえる。
・厚労省, 2016-6-17 ・株式会社バイファ, 2016-6-17 ・NHK, 2016-6-17● 生物資源研究所 GMペチュニアを野生株として展示
農研機構は3月4日、農業生物資源研究所で野生株として栽培していたペチュニアが遺伝子組み換え株の疑いが判明したと発表した。問題のペチュニアがカナマイシン耐性遺伝子を保持しているのが分かったという。詳細なDNA解析を実施し、種子の導入と配布履歴を調査中とした。
・農研機構, 2016-3-43月25日になり農業生物資源研究所は、遺伝子組み換えペチュニアが野生種として栽培されていた件についての調査報告書を公表した。その中で、同時期に同じ隔離温室内でGM種と野生種を栽培していたことがあり、このときに「混入」が起きた可能性が高いとした。 別の大学などに種子が野生種として譲渡されているが、譲渡先から外部環境に漏出した可能性は低いとしている。また、花粉が外部に出て野外で栽培種と交雑個体が生じている可能性も低いと考えられるとしている。
問題のGMペチュニアは、大腸菌由来のβ-グルクロニダーゼ遺伝子と選抜マーカー用の抗生物質カナマイシン耐性遺伝子が組み込まれ、外見からはGM種とは判別できないとしている。1993年から08年まで同研究所で栽培されていたという。
公表された「調査の詳細」では、肝心な、なぜ同じ隔離温室で栽培されたのか、なぜ遺伝子組み換え種と野生種の「混入」が起きたのかについての言及がまったくない。手抜きの報告書といわざるを得ないし、専門家の仕事としてはなんともお粗末。
・農業生物資源研究所, 2016-3-25● 熊本大学 GMウイルスを死滅化せずに廃棄
熊本大学は3月23日、遺伝子組み換えウイルスの不活性化をせず流し台に廃棄していた「事故」の調査結果を公表した。「事故」後、気が付いて次亜塩素ナトリウムを投入したことで死滅したと推定。大学内の貯水槽からは外部に出ていないと分析している。
この「事故」の調査により、熊本大学では2008年から、実験に使った遺伝子組み換えウイルスの不活性化の作業を、定められたP2レベルではなくP1レベルの施設で行っていたことが判明したとしている。こうした事態を受けて熊本大学は、関係者への教育訓練を徹底するとしている。公表された調査結果では、手抜きで不活性化せずに廃棄したのは2月だけのようだが、それ以外になかったとは明記していない。
この熊本大学の遺伝子組み換えウイルスの手抜き廃棄は、3月19日に熊本日日などが報じている。
・熊本大学, 2016-3-23 ・読売新聞, 2016-3-26● 奈良先端大 GMシロイヌナズナが構内で自生
奈良先端科学技術大学院大は5月9日、敷地内で遺伝子組み換えのシロイヌナズナが自生しているのが見つかったと発表したと毎日新聞が報じた。近くの温室から種子が流出した可能性が高いとしている。 見つかったGMシロイヌナズナは、周辺で自生の525株中289株がGMだったという。先端大の外では見つかっていないとして、先端大は「外部への影響はないと考えている」としている。栽培温室からの種子の漏出防止には、出入り口に粘着シートを設置していたという。
同大学は5月10日、遺伝子組み換えシロイヌナズナの自生に関し経緯と今後の対応について発表した。問題のGMシロイヌナズナは栽培温室周辺20m以内に限定され、同大学周辺の公道にもなかったとしている。環境や人体に影響を与える遺伝子は使用していないことを考慮すると、今回の事故による周辺環境への影響はないと考えていて、漏出した組み換え体の作成時期や実験場所の特定を進めているとしている。
同大学は、学外の専門家を含めた調査委員会を設置し、原因究明と今後の対策等について、調査・検討を進めているとしている。また、漏出原因の解明状況、組み換え体の漏出防止策、環境モニタリングの実施結果等について公表するともしている。
昨年5月、名古屋大学でも遺伝子組み換えシロイヌナズナの自生が見つかっている。このときは、実験終了後の不活化処理が行われなかったことが原因とされた。
・奈良先端科学技術大学院大学, 2016-5-10 ・毎日新聞, 2016-5-9- ネオニコ系国内出荷量 21年度3.8%増 第二世代は63%増
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