ベルン大学の研究チームは7月27日、ネオニコチノイド系農薬で汚染された花粉を与えられたオスの精子が39%減少するという研究結果を、英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)に発表した。この研究結果に関し研究チームは、ベルン大学のリリースを通して、ネオニコチノイド系農薬のより完全なリスク・アセスメントを要求するとしている。EUは2013年12月、今回使用されたチアメトキサムとクロチアニジンなど3種類のネオニコ系農薬の一時的に使用を禁止している。
研究チームはミツバチを2つのグループに分け、一方のグループには、実際に使用されている濃度の2種類のネオニコチノイド系殺虫剤(4.5ppbのチアメトキサムと1.5ppbのクロチアニジン)を含む花粉の餌を与えた。もう一方のグループには汚染されていない餌を与えた。38日後、雄バチの精液を抽出して検査したところ、汚染されていない花粉のグループの生きている精子数が約198万であったが、汚染された花粉のグループでは約120万で、約39%減少したとしている。
研究チームのジョフリー・ウィリアムス(ベルン大学・上級ミツバチ研究者)は、精子が損傷するメカニズムは分かっていないとしている。
欧米での蜂群崩壊症候群(CCD)の原因としてこれまで、ネオニコ系などの殺虫剤や、ダニ、ウイルスなどが指摘されていた。米国農務省のミツバチ科学者ジェフ・ペティスは、「Queen failure」(精子の生存能力の低下)は大きな問題であり、この研究がその問題をよく説明し、精子の健康が問題の3分の一を説明するかもしれないと述べたという。
ネオニコ系農薬の開発企業の一つバイエルの広報は、「実験室での人工的な暴露は、現実を反映しない」とし、バイエルの研究者が、この研究に対して論評するだろうとしたという。
・Proceedings of the Royal Society B, 2016-7-27 ・University of Bern, 2016-7-27 ・Herald, 2016-7-27 ・AFP, 2016-7-27農水省は先ごろ、日本では蜂群崩壊症候群(CCD)は起きていないものの、ミツバチ被害の原因の多くが、水稲の斑点米カメムシ防除のネオニコ系農薬にあると認める報告書を公表している。しかし、対策は、散布時期をずらしたり、ミツバチの巣箱の移動といったところに留まっている。
蜂群崩壊症候群(CCD)によりミツバチへの被害が焦点化されているが、ミツバチ以外の野生のハチ類やチョウ類などによる受粉媒介動物への影響は当然考えられる。野生の受粉媒介動物による受粉媒介の方が規模はより大きく、新たな「沈黙の春」が進行している。
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