米国のような「落花後」規制は盛り込まれず
厚労省は2月1日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会で、ネオニコチノイド系農薬のスルホキサフロルの承認手続きを再開し、残留規制値(案)公表された。昨年3月、米国の登録取消しを受けて、突如ストップした承認手続きが再開されたことで、近く案通りに承認されそうだ。欧米と異なり、ネオニコ系農薬の規制には注意書きで十分と、規制に後ろ向きの姿勢もはっきり出てきた。
公表された残留基準値(案)では、イチゴの残留基準値が0.7ppmから0.5ppmに修正された以外は、2015年11月段階のものと同じである。また。農薬の使用基準も修正されていない。農水省は、申請のあった全ての作物への登録を予定しているという。
ミツバチの大量死に関する農水省の調査でも、水稲へのネオニコ系農薬の散布が原因として考えられるとしている。スルホキサフロルでも、イネが適用作物にあげられている。ウンカ類、ツマグロヨコバイと並んでカメムシ類に対しても、収穫日の7日前まで、合計3回の使用が認められている。訪花の受粉媒介動物に影響があるとして、米国は「落花後」でなければ散布できない規制を取り入れたが、農水省にはそうした考え方は全く見られない。少なくとも開花期の前後に禁止期間を設けるべきだという意見もある。2000年に斑点米カメムシ類が植物防疫法の指定有害動植物に指定されことで、不要な農薬散布が行われていると指摘されている。
同時に公表された農水省の「スルホキサフロルの米国の登録状況と日本における申請内容について」によれば、ミツバチに関し3点の使用上の注意事項を示している。農水省は、この注意事項を記載し、注意事項を守ることで、受粉用のミツバチへの影響はないとしている。米国とは栽培の様態が異なるので、米国が一部作物への使用禁止や「落花後」にのみに使用を限定したような規制は不要であるとしている。
こうした農水省の方針は、農業環境技術研究所が受粉の7割を担っていると分析した、野生動物への影響は全く考慮されていない杜撰なものであるといわざるを得ない。
農水省の管轄にある森林総合研究所は昨年11月、世界的な共同研究による受粉媒介動物(送粉者)保護へ「送粉者のための10の提言」をまとめて公表し、その中で、「送粉者に対する農薬のリスク評価を行い、その結果に基づいて農薬の使用基準を制定すること」と提言している。農水省の承認方針は、この点でも、野生の受粉媒介動物に関して全く考慮されていないものになっている。
政府は昨年12月、「送粉者のための10の提言」を踏まえた、小川参議院議員の「ミツバチ等の花粉媒介生物(送粉者)の保護に関する質問主意書」への答弁書で、これまでの野生の受粉媒介動物を無視してきた方針を転換するような「農薬の使用規制を含めた必要な措置を検討していく方針」と明記し、初めて規制に踏み込むような姿勢をみせたが、反故にされた形のようだ。
・農業環境技術研究所, 2016-2-4 ・森林総合研究所, 2016-11-28 ・参議院質問趣意書 小川議員, 2016-12-13米国では一昨年9月、農民団体などの訴えに対して、米国連邦地裁はスルホキサフロル登録無効の判決を下した。この判決により米国環境保護庁は11月、農薬登録を取り消していたが、昨年10月、一部作物への使用禁止や「落下後」規制など使用条件を厳しくして改めて登録した。
この米国の動きに、厚労省は昨年3月、意見公募も終え、承認寸前の段階で承認手続きを停止していた。昨年10月、米国が再登録したことにより、国内手続きを再開した。
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