
米国化学業界が国際がん研究機関「改革」キャンペーン
米国で今、「クロをシロと言いくるめる」ようなことが起きている。米国化学工業協会(ACC)は1月25日、国際がん研究機関(IARC)が透明性と信頼性に欠けるとして、改革を求めるキャンペーンを開始したと発表した。米国化学工業協会は、国際がん研究機関の化学物質のリスク評価が、市民の混乱と誤った政策決定をもたらしていると断じている。米国化学工業協会の会員企業には、モンサントやデュポン、ダウなどの名だたる農薬メーカーが名を連ねている。日本企業では住友化学、三菱化学、三井物産などが会員となっている。
国際がん研究機関は2015年3月、グリホサートが「おそらく発がん性がある」とする評価を公表し、モンサントなどの農薬企業はもちろん、各国の規制機関からも非難を浴びた。
国際がん研究機関と農薬企業のどちらの透明性が勝っているかを考えれば、トランプ大統領の誕生で一躍有名になった「オルタナ・ファクト(もう一つの事実)」を体現するようなキャンペーンといえるだろう。
・American Chemistry Council, 2017-1-25◆ 国際がん研究機関の評価は「透明性に欠ける」?
米国化学工業協会はまた、すぐれた科学者は、国際がん研究機関の透明性が不足しており、科学的なエビデンスの過小評価、誤用された利害対立方針、モノグラフ決定の紛らわしいやり方などと批判しているという。そして、国際がん研究機関のリスク評価はありえない曝露条件で行われているともしている。
こうした国際がん研究機関の発がん性評価が、米国の政策決定に大きな影響を与えていると批判している。その一例として、有害物質への暴露に対して事前警告を義務付けているカリフォルニア州法の「プロポジション65」が、国際がん研究機関の発がん性評価に拠っていることをあげている。その評価が、特定の農薬を小売店が排除する理由にしていると非難している。国際がん研究機関は15年3月、グリホサートを「おそらく発がん性がある」と評価した。この評価を受けて、カリフォルニア州環境保護局は15年9月、「プロポジション65」によりラウンドアップのようなグリホサートを含む農薬に「発がん性」表示を行う方針を明らかにしていた。
米国化学工業協会はまた、国際がん研究機関の資金の多くが米国の拠出、つまり米国民の税金でまかなわれているのに、きちんとした仕事をしていないとも非難している。「税金」という市民の受け入れやすいフレーズを入れている。
米国では、環境団体による食品の残留グリホサート検査結果が公表されたり(16年10月)、認証会社が行う食品の「Non−グリホサート認証」表示が始まっているなど、ラウンドアップやグリホサートへの反対が高まってきている。米国化学工業協会の国際がん研究機関「改革」キャンペーンは、こうしたグリホサート(ラウンドアップ)への反対運動や市民感情への「反撃」であり、米国化学工業協会が代表する化学業界が「気に入らない」「目障り」な国際がん研究機関をヤリ玉に挙げた形だ。
◆ 農薬評価はどちらが「透明」か?
米国化学工業協会は、国際がん研究機関の評価が「透明性に欠ける」と非難している。例えば、国際がん研究機関は、ラウンドアップの主成分であるグリホサートが「おそらく発がん性がある」とする評価に使った論文は、一般に公開されたものであり、第三者の再評価が可能な方法をとっている。一方、世界的に各国の規制機関は、リスク評価のデータを全て公開しているわけではない。企業機密(知的財産権)を理由として、非公開の申請企業の提出したデータでリスク評価を行っている。昨年12月、欧州食品安全機関(EFSA)は、欧州議会議員の要請に、しぶしぶ、再検証不能な形で一部データを公開した。このことが、米国化学工業協会の声明が言いがかりであり、デマを振りまくものであることを如実に示している。どちらがより透明であるかは、一見して明らかである。どちらが「オルタナ・ファクト」であるかははっきりしている。
・Reuters, 2017-1-25【関連記事】
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