

ドイツのテスト・バイオテックは先ごろ、EUが米国から輸入する牛の交配用精子の中に、クローン牛の精子が含まれているケースがあるという調査報告書を公表した。テスト・バイオテックによれば、2015年に米国から輸入された牛の精子は約40トンに上り、EUにはすでに、かなりの数のクローン牛が入っている可能性があるとしている。しかし、EUには、クローン動物に関する義務的表示もトレーサビリティ制度もなく、追跡できないと警告している。この調査は、欧州議会内会派の欧州緑グループ・欧州自由連盟(Greens/EFA)の委託によるもの。
テスト・バイオテックによれば、ドイツとオランダの畜産関連のデータベースでは、クローン牛由来の精子が含まれているかは不明だった。しかし、畜産関係団体は、絶対にないということは言えないがほとんどありえない、と否定したとしている。一方、英国の畜産関連団体のデータベースには、クローンを示す記号を明記した2頭の乳牛が登録されているのが見つかったという。
テスト・バイオテックはまた、クローンあるいはクローン由来の精子の公的な登録制度がなく、実態が分からなくなっていると制度の欠陥を指摘している。また、EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)により、クローン動物に対する義務的表示が妨げられる可能性があり、消費者や農民の利益保護という欧州議会の意思がが蝕まれると警告している。
・Test Biotech, 2017-2-7米国食品医薬品局(FDA)は2008年、クローンによる牛や豚、ヤギなどから生産されたミルクや肉の消費を承認している。
EU議会はクローン動物輸入禁止を議決
EU議会は2015年9月、クローン動物でないこと、あるいはクローン動物の子孫でないことが証明できない場合、輸入を禁止するとする議会報告書を賛成529、反対120で採択した。反対のうち33票は英国選出議員による。
この報告書は6月のEU議会・環境農業委員会において、賛成多数で採択されていた。委員会では、いまだ高い死亡率、クローンの安全性に対する市民の懸念や反対が強いことなどを理由として、牛や羊だけではなくすべての家畜動物に範囲を広げ、クローンやクローン後代でないことの証明を必要とするとした。対象には、動物の胚や精液、あるいは動物由来の飼料も含まれるとしていた。
・European Parliament, 2015-6-17 ・European Parliament, 2015-9-8日本:食品安全委員会は「安全」だが「出荷自粛」
日本では、2007年ごろから体細胞クローンの流通解禁へ向けた議論が進んだ。食品安全委員会は2009年6月、「現時点では安全」とする健康影響評価をまとめ、次のように述べている。
なお、体細胞クローン技術は新しい技術であることから、リスク管理機関においては、体細胞クローン牛及び豚に由来する食品の安全性に関する知見について、引き続き収集することが必要である。
・食品安全委員会, 2009-6-23
日本国内ではこれまでに600頭余りの体細胞クローンが生まれているが、食品安全委員会の健康影響評価を受けて、農水省は「出荷自粛を要請」するとして、明確な流通禁止とはしなかった。農水省は現在、4半期ごとの頭数などの概況を公表していて、流通していないことになっている。
早くから輸入クローンの可能性を認識していた厚労省
厚労省は2008年、「体細胞クローン家畜由来食品に関する説明会」を開催した。同年5月に東京で開催された説明会の席上、佐々木昌弘課長補佐(当時厚労省医薬食品局食品安全部企画情報課)は、食品安全委員会へクローン動物の評価を諮問した理由として、(1)欧米での体細胞クーロン牛解禁の流れ、(2)国内での体細胞クローン牛に関する研究や情報収集が一定程度終わったこと、(3)体細胞クーロン牛の後代由来の製品(肉や乳製品)の流通の可能性が出てきたこと、の3点を挙げている。
その上で佐々木課長補佐(当時)は、「明確な証拠があるわけではないが」としながらも、「米国食品医薬品局が出荷自粛の要請を取り下げたことにより流通の可能性が出てきた」と明言している。
建前はともかく、早い時期から厚労省は、クローン牛やその後代が流通している可能性を認識していたことは確かだ。しかし、EU同様に義務的な表示もトレーサビリティ制度もなく、その実態は分からない。
米国産交配用精液 年間200キロを輸入
財務省の輸入統計によれば、交配用の牛の精液は年間約350Kgが輸入され、その約6割が米国、3割がカナダとなっている。輸入統計からは、輸入精液がクローン牛やその後代であるかは全く分からない。テスト・バイオテックの調査結果が指摘するように、日本にもクローン牛由来の精液が輸入されている可能性があると思われる。
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