EUでは、モンサントの除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートの禁止を求める市民発議が始まっているが、欧州化学機関は3月15日、グリホサートの発がん性を否定する見解をまとめ公表した。EU委員会は昨年、期限の切れるグリホサートの再登録を目論んだが、必要な加盟国の賛成が得られなかった。しかし、委員会権限で18か月の一時的延長を決め、欧州化学機関で再評価が実施されていた。この再評価により、EU委員会はグリホサートの再登録へ向け動き出すことになる。
欧州化学機関リスク評価委員会は再評価の結果、グリホサートに関する科学的な証拠が、発がん物質と分類するために基準を満たさないとした。その上で、グリホサートは眼に重い損傷を引き起こし、長期的には水生動物に有毒である、という現在の評価を変更する必要はないとした。
ロイターによれば、欧州化学機関の評価結果について、EU委員会の広報担当者は、欧州化学機関からの公式報告書を受け取った後、グリホサートの再登録に向けて、8月までに加盟国との調整を始め、遅くとも半年以内、もしくは17年末までに決定したいと語ったという。
・ECHA, 2017-3-15 ・Reuters, 2017-3-15この欧州化学機関の評価に、欧州議会の議会内会派の欧州緑グループ・欧州自由連盟は同日、「欧州化学機関の見解がグリホサートについてのすべての疑問に答えるというわけではない」とする声明を出した。
声明では、欧州化学機関が欧州食品安全機関と同じ見解を出したことについて、「発がん性の疑いがある」とした国際がん研究機関と矛盾すると批判した。そして、この欧州化学機関の見解が非公開のデータに基づいていることを指摘している。欧州食品安全機関は今年1月、同会派の議員によるグリホサートの評価データの公開の求めに応じ、一部のデータを「公開」した。しかし、引き渡されたデータ葉生データではなく、「編集」されたものであったため、その透明性の欠如が非難された。
リスク評価委員会メンバーの利益相反を指摘する公開状の署名団体の一つであるグリーンピースEUも同日、「欧州化学機関は、グリホサートのガンの証拠を人目から遠ざける」とし、この評価により、EUが今後15年間、グリホサートの使い続けることに道を開くものだと批判する声明を出した。
声明は、欧州化学機関は、グリホサートががんを引き起こすことを示す科学的な証拠を、非公開のデータを使うことで退けたと批判した。
・Greens/EFA, 2017-3-15 ・Greenpeace EU, 2017-3-15世界保健機構(WHO)の付属機関である国際がん研究機関は15年3月、グリホサートに「おそらく発がん性がある」と分類する評価を公表している。
欧州15か国、38の市民団体や環境保護団体は1月25日から、グリホサートの禁止や農薬登録手続きの改革を求める市民発議(ECI)を始めている。グリーンピースEUによれば、わずか5週間で、50万人の署名が集まったという。EUの市民参加の制度である市民発議には、12か月で100万人以上などの署名が必要とされているが、要件をクリアした場合、EU委員会、欧州議会は納得性のある対応を迫られることになる。この署名の集まり具合には、欧州市民のグリホサート反対意識が強く反映している。
・Greenpeace EU, 2017-3-14【関連記事】
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