EU委員会は3月27日、遺伝子組み換えトウモロコシ3品種について加盟国の投票を行い、いずれも特定多数を得られず承認に失敗した。EU委員会は今年1月、常任委員会でも承認に必要な賛成を得られなかった。
投票に付されたのは、栽培が承認されているモンサントの害虫抵抗性遺伝子組み換えトウモロコシ・MON810の更新と、新たな2品種の害虫抵抗性・除草剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシ(シンジェンタのBt11とダウ・アグロケミカル/パイオニアの1507)。EUでは、承認には最低16カ国と、合計人口がEUの65%の特定多数が必要だが、いずれも英国など、おおよそ3割の賛成しか得られなかった。EUでは、モンサントのMON810がただ一品種だけ栽培が承認されて、スペインなど5カ国、10万ヘクタールあまりで栽培されているという。
欧州議会内会派の欧州緑グループ・欧州自由連盟(Greens/EFA)は、「委員会は提案を取り下げなければならない。エネルギーをヨーロッパの農民と消費者の必要としている、より安全でより持続可能な農業を拡大することに集中すべきだ」とする声明を発表した。
・Greens/EFA, 2017-3-27この投票結果を受けて、これまでEU域内での遺伝子組み換えに反対してきたNGOは、EU委員会が栽培承認を断念するように求める声明を、相次いで発表した。
グリーンピース欧州は声明を発表し、EU委員会が投票結果を尊重し、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培を承認しないよう求めた。声明は、ユンカーEU委員会委員長の「加盟国の大多数がそうしたくないとする場合、委員会が決定することを望まない」との発言を引き、「すでに欧州諸国の3分の2は遺伝子組み換え作物の栽培を禁止している」「委員会は生態系農業を支援すべきだ」としている。
・Greenpeace Europe, 2017-3-27大地の友・欧州は声明を発表し、「好き嫌いに関わらず、ユンカー委員長は自身の立場を、遺伝子組み換え作物を望まない大多数の国、市民、農民の側に置くことも、巨大企業を支持することもできる」としつつ、「これを最後に、失敗した遺伝子組み換え技術を終わりにさせ、気候変動に対応する農業の強化に集中して、家族農業を守り、自然破壊を止める時」「遺伝子組み換え作物をやめ、前へ進む時」として、決断を迫った。
・Friend of Earth Europe, 2017-3-27今月初め、バイエルの研究開発部門のトップであるエイドリアン・パーシー氏は「正直なところ、多分、戦いに負けたと思う」と語ったと報じられている。パーシー氏はまた、フランスやドイツが遺伝子組み換え作物の栽培に反対する立場を変えない以上、「戦いを続ける意味がない」とも語ったという。モンサントの買収を決めたバイエルは、欧州での遺伝子組み換え作物栽培の実現に白旗を掲げた。欧州は、EU委員会が3つの遺伝子組み換えトウモロコシ栽培承認に血道をあげるような状況にないことは確かだ。
イングランド以外の英国の3地域(ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)は、すでに昨年、遺伝子組み換え作物の栽培禁止を決め、EU委員会に通告している。しかし、今回の投票で英国は、3つとも賛成票を投じた。その英国は3月29日、EU離脱の通告を行った。2年後、EUを離脱した英国・イングランドで遺伝子組み換え作物栽培が始まる可能性は残っている。英国は先ごろ、光合成強化・増収の遺伝子組み換え小麦の屋外試験栽培を承認し、遺伝子組み換えジャガイモも試験栽培の承認待ちの状態にある。
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