弘前大学と農研機構は4月20日、ゲノム編集と接ぎ木技術により得られたジャガイモの屋外試験栽培を4月26日より開始すると発表した。日本で初めてのゲノム編集由来作物の屋外試験栽培のようだ。
このジャガイモは、弘前大学の研究チームが開発したもので、ゲノム編集により特定遺伝子の機能を抑制する小干渉RNAを作るようにした台木を使い、ジャガイモを接木して、導入遺伝子のないジャガイモの根塊を得たとしている。このジャガイモはまた、この操作による塩基配列が変わることもないという。
こうした特長により、発表では環境省などは、従来の遺伝子組み換え規制の対象外と判断したという。しかし、世界初のケースであり、遺伝子組み換え作物に準じた生物多様性影響評価を行い、その上で栽培する計画だとしている。試験栽培では、このジャガイモの形質が安定して遺伝するのかの確認とともに、安全性に問題がないかなどの調査を行うとしている。
この導入遺伝子が塊茎に残らないようにしたジャガイモは、低アミロースでん粉生成・低温糖化抑制の性質から、ポテトチップにした場合、焦げにくくアクリルアミドの生成が抑えられるという。
弘前大学は、今後、この技術をトマトや果樹にも活用していくとしている。
・弘前大学, 2017-4-20このジャガイモについては昨年2月、文科省の意見聴取会合の議題に上がっている(議事録43ページ以降)が、昨年の生物多様性総合検討会の議題には上がっていない。
・文科省, 2016-2-1このジャガイモが商業栽培された場合、表示なしで流通することになりそうだ。このような導入遺伝子がないケースでは、今後も遺伝子組み換え規制の対象外として市場に出てくる可能性が十分にある。その場合、表示義務はないため、知らないうちに新育種技術により作出された食品を食べてしまう可能性がある。
欧米では規制を求める声
こうしたゲノム編集に代表される新育種技術への懸念に対して、欧米では規制を求める声が大きくなってきている。
米国と欧州の消費者団体で構成するトランスアトランティック消費者ダイアログ(TACD)は昨年、ゲノム編集技術など従来の遺伝子組み換え技術と異なる新育種技術について、EUと米国に対して遺伝子組み換え技術と同様の規制と表示を求める7項目の要請書を送っている。
米国では昨年11月、、全米有機認証基準委員会がゲノム編集技術などの新育種技術による遺伝子操作由来の成分について、従来の遺伝子組み換えと同じように、有機食品としては認めないとする勧告を満場一致で決議している。
ドイツのバーバラ・ヘンドリックス連邦環境相は先ごろ、ゲノム編集や合成生物学はEUの遺伝子組み換え規制の対象であるとする見解を述べたと伝えられ、EUの規制枠組みに影響を与えそうだ。
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