

ロンドン大学の研究者らは、市販の農薬に含まれる界面活性剤などの補助剤が主剤の活性成分よりも毒性が高いにもかかわらず、安全性評価の対象となっていないことは、実際に使われる農薬の安全性評価を誤ることになり、補助剤の毒性から環境やヒトの健康を守る新たな規制が必要だとする研究結果を発表した。補助剤の毒性無視は市販農薬の安全性を偽ることになると指摘している。
日本も含めて、農薬の評価は活性成分のみであり、補助剤はないものとして扱われている。ScienceDailyはこの研究について、安全性評価の対象となっていない農薬製剤の補助剤(アジュバント)のリスク評価に関する初めての包括的なレビューだとしている。
Frontiers in Public Healthに発表されたこの研究では、グリホサートとネオニコチノイド系製剤に焦点を当てて、評価対象外となっている補助剤の毒性の問題点を指摘している。ヒトへの影響について、補助剤の毒性が知られているにもかかわらず、その毒性は農薬評価では一般に無視され、一日許容摂取量(ADI)の対象外であり、農薬残留物に対する食事曝露の健康リスク評価には含まれない、と指摘している。そして、活性成分単体のみの評価が、実際の環境中のミツバチなどの生物への影響とのズレを生じさせていると指摘している。
グリホサートに関する一例として、先ごろ発表されたフランス・カーン大学のセラリニ教授らの研究を引用し、グリホサート単独に比べ補助剤の毒性は1千倍以上あることを示したとしている。その補助剤の一つである界面活性剤POEA(ポリエトキシ化獣脂アミン)は、EUが2016年にグリホサートの暫定延長を決めた際に使用が禁止されている。
ネオニコチノイド系農薬の有効成分と補助剤の影響の違いは、無脊椎動物でも確認されていると例示している。住友化学のクロチアニジン製剤(Apache 50WG)のオオミジンコに対する毒性は、クロチアニジン単独よりも46.5倍高いことが判明しているという。
こうしたことから、規制当局は、補助剤を含む化学物質の混合物の毒性に関しリスクアセスメントの不確実性を認める必要があるという。その上で、一日許容摂取量(ADI)と残留基準値(MRL)の設定には安全係数の積み増しが必要だとしている。また、市販農薬のすべての成分は、同じリスク評価を受けるべきであり、不活性か活性かの分類は科学的根拠がない、と指摘している。
・Frontiers in Public Health, 2018-1-22 ・ScienceDaily, 2018-3-8 ・Toxicology Reports, Volume 5, 2018 ・Sustainable Pulse, 2018-1-8【関連記事】
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