最終更新日:2018年6月24日
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2018.06.24 No.934
■ゲノム編集の豚肉が食卓へ上るかもしれない
pig_england.jpg / Flickr
ゲノム編集の豚肉が食卓に上がるには合意が必要というが / Rictor Norton & David Allen / Flickr

 英国・エディンバラ大学ロスリン研究所などの研究チームは6月20日、ゲノム編集技術を使い豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS: porcine reproductive and respiratory syndrome)ウイルスに耐性のある豚を作出したとジャーナル・オブ・バイロロジー(電子版)に発表した。ロスリン研究所は、この遺伝子操作が豚の健康に何らかの影響を与えているという兆候は見られないとしている。ロスリン研究所は商業飼育に慎重な姿勢だが、英国のコーブ環境相は今年1月、EU離脱後に遺伝子組み換え動物が販売される可能性に言及している。ゲノム編集の豚肉が食卓に上る可能性がでてきた。

 PRRSは、豚のかかる疾患で、米国と欧州だけでも年間25億ドルの対策費用がかかっているという。この豚は、ゲノム編集によりPRRSウイルスが利用する細胞表面のCD163受容体を取り除くよう、関係する一部の遺伝子を除去したとしていて、副作用が起きているか、さらに長期の研究が必要だとしてる。同研究所は、動物遺伝学研究開発大手の英ジーナス社と協力してこのPRRS耐性豚を開発したという。発表では、目的外の遺伝子を操作してしまうオフ・ターゲットには触れていない。

 EUでは現在、遺伝子組み換え動物を食品として扱うことは禁止されているが、同研究所は、このPRRS耐性豚が成功したとして、一般に受け入れられるならば、ゲノム編集技術を商業的な育種に使うことを検討するとしている。その上で、遺伝子組み換え肉が食品として利用されるための公開の議論を進めるべきだともしている。

 ・University of Edinburgh, 2018-6-21  ・Jounal of Virology, 2018-6-20  ・Guardian, 2018-6-20

 昨年2月には、欧州の国際有機農業運動連盟(IFOAM)など20団体が、新育種技術で作出された作物や動物は遺伝子組み換え生物と分類すべきであるとする共同見解を発表している。

 ・IFORM ほか, 2017-2

 EUの規制枠組みにおいて、ゲノム編集技術を使った育種を位置づけを従来の遺伝子組み換えの枠内とするか、あるいは規制の対象から除外するのか、近く欧州司法裁判所の決定がなされるだろうと見られているという。

 欧州司法裁判所の決定が厳しいものとなったとしても、英国は19年3月にEUを離脱する。EU離脱後の英国では、EUの規制に関わらず、こうしたゲノム編集動物が食品として流通する可能性が指摘されている。ガーディアン紙(電子版)は、このPRRS耐性豚は5年以内に商業的な飼育が始まる可能性があると報じている。今年1月、EU離脱後の英国で遺伝子組み換え動物が販売される可能性があると、コーヴ環境大臣が語ったとテレグラフ紙(電子版)が報じている。このPRRSウイルス耐性のゲノム編集豚の肉が、世界で最初の遺伝子改変動物由来の肉となるかもしれない。

 ・Telegraph, 2018-6-20  ・Telegraph, 2018-1-4

 このゲノム編集の豚について、自身が30年間豚を飼育している英国ソイル協会のブラウニング博士は、このアプローチは根本的な原因に対処するのではなく、対症療法だと指摘している。屋外で高い福祉基準で飼育すれば、動物は病気にかかりにくくなるという。耐病性のために遺伝子が改変されており、病気にかからないような飼育を企業に奨励するものではなく、解決策ではないと指摘しているという。

 ・BBC, 2018-6-20

 工業的な飼育に問題の原因があり、そこのところから対処すべきだというブラウニング博士の指摘はもっともである。そして、消費者とのコンセンサスも無く、安全性の確認もないまま、なし崩し的に商業飼育が始まり、食品として流通することが最大の問題であり懸念である。

(参考)
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