最終更新日:2018年7月13日
2018年
 07年 08年 09年 10年 11年
 12年 13年 14年 15年 16年
 17年 18年 19年

2018年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031
最近の記事
2022.12.29 No.1152
2022.12.25 No.1151
2022.11.30 No.1150
2018年7月の記事
2018.07.31 No.952
2018.07.30 No.951
2018.07.26 No.950
2018.07.25 No.949
2018.07.21 No.948
2018.07.17 No.946
2018.07.14 No.945
2018.07.13 No.944
2018.07.10 No.942
2018.07.09 No.941
2018.07.07 No.940
2018.07.05 No.939
2018.07.03 No.938
2018年6月の記事
2018.06.29 No.936
2018.06.25 No.935
2018.06.24 No.934
2018.06.22 No.933
2018.06.16 No.932
2018.06.11 No.931
2018.06.08 No.930
2018.06.07 No.929
2018.06.04 No.928
2018.06.03 No.927
2018.06.02 No.926
2018.06.01 No.924
2018年7月

2018.07.13 No.944
■農薬再評価はネオニコ規制につながるか
honeybee-apple-pollination.jpg / Flickr
リンゴの花とミツバチ / BlueRidgeKitties / Flickr

 齋藤農水大臣は7月6日の会見で、EUが屋外使用禁止を決めたネオニコチノイド系3農薬(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の再評価を優先的の行うことにしていると語った。優先的な再評価はEUが屋外使用を禁止する3種類に限定したものであり、優先再評価がEUのような規制につながるかは不明だ。

 齋藤農水大臣の会見内容(農水省発表より)
 再評価の実施に当たってはですね、ミツバチへの影響評価についても充実を図った上で、欧州の規制対象となっているネオニコチノイド系の3農薬については使用量が比較的多いことから、優先的にですね再評価を行うこととしております。その結果に応じて必要な場合には、登録の見直しなど適切な対応をですね、講じていく考えであります
 ・農水省, 2018-7-6

再評価の結果 規制なしの可能性

 この再評価とネオニコチノイド系の農薬の問題は国会でも取り上げられている。6月7日の参院農水委員会で審議された農薬取締法改正案の質疑において、紙智子議員(共産)は、ネオニコチノイド系などの再評価を最優先すべきだと質問した。これに対して齋藤農相は次のように答弁している。

齋藤農相 二〇二一年度以降、国内での使用量が多い農薬から優先的に進めていくということでありますけれども、欧州で使用規制の対象となっておりますネオニコチノイド系の三農薬、クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム及びグリホサートにつきましては、使用量が比較的多いことから優先的に評価を行いたいと思っています

 答弁で齋藤農相は、EUの禁止するネオニコチノイド系3剤とグリホサートを優先的に再評価するとしている。しかし、それは「再評価」だけであり、すぐネオニコチノイド系農薬の規制強化に結びつくとは限らない。EUやカナダのような規制がなされる保証はどこにもない。

 農水省はこれまで、種子処理に多く使われている欧米とは異なり、日本では稲苗の箱施用や作物への葉面散布に多く使われていることから、「欧米のように農薬の粉塵が広範囲に巻き上がるような方法では播種していないため、種子処理や土壌処理への使用の制限は不要」(Q&A)だとしている。再評価したが、欧米と使い方が違うから規制は不要とする可能性が高いかもしれない。

 ・農水省, 2016-11-22

農薬再評価は補助剤を含めるべき

 今回の農薬取締法改正で、15年ごとの再評価が導入されることになった。しかし、評価されるのは主成分だけであり、補助剤を含めた製剤としての評価ではないことは大きな問題である。

 今年1月、ロンドン大学などの研究チームは、グリホサートやネオニコチノイド系農薬を対象に絞った毒性評価の結果、界面活性剤などの補助剤が主成分よりも毒性が高いとする研究結果を発表している。研究チームは、市販の農薬は全ての成分が同じリスク評価を受けるべきであると指摘し、一日許容摂取量(ADI)と残留基準値(MRL)の設定には安全係数の積み増しが必要だとも提言している。

 ・Frontiers in Public Health, 2018-1-22

 研究チームは、主成分だけを評価している現行の農薬登録では、実際に使われる農薬の安全性評価を誤ることになり、補助剤の毒性から環境やヒトの健康を守る新たな規制が必要だとしている。農水省が2021年度以降に予定されている再評価では、ロンドン大学の研究結果を参考に、主成分だけではなく、製剤としての評価を透明性のある形で実施すべきだ。

 齋藤農相は、再評価の対象をEUが屋外使用を禁止とした3つのネオニコチノイド系(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)に限定しているが、毒性の強く、EUでは昨年9月に失効したフィプロニルなどの浸透性農薬を含む全てのネオニコチノイド系の再評価を行うべきだ。

 今回の農薬取締法改正ではもう一つ大きな問題がある。これまでの3年の有効期限を廃止する一方で、15年ごとに再評価するやり方に改めるが、制度上一度登録された農薬は「失効」することがなくなるという問題を抱えている。登録されると、失効することなく登録され続けることになる。

 ネオニコチノイド系農薬の規制強化は、欧米を中心に世界的な流れとなっている。EUは今年4月、加盟国の賛成を得てネオニコチノイド系3農薬(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の屋外使用禁止を決めた。米国は、15年4月からネオニコチノイド系4農薬の新規登録を中止している。カナダは、イミダクロプリドの段階的使用禁止とクロチアニジン、アセタミプリドの規制強化の方針を明らかにしている。

 こうした先進国での規制強化の結果、だぶついた規制農薬がアジア・アフリカの途上国へ流れ込み、乱用につながり、汚染の拡大を招くことは避けなければならない。バイエルやシンジェンタ、住友化学といったネオニコチノイド系農薬を製造している企業が、世界的な流れを見誤ることは許されない。

(参考)
【関連記事】
カテゴリー
よく読まれている記事