最終更新日:2020年4月8日
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2020.04.08 No.1031
■「沈黙の海」の愚 養殖サケの寄生虫駆除にネオニコ
sea_lice.jpg / Flickr
ウミシラミが寄生したサケの幼魚 / Watershed_Watch / Flickr

 スコットランドのサケ養殖業界が寄生虫駆除にネオニコ系イミダクロプリドの使用を「秘密裡」に計画している。3月17日、英国スコットランドに拠点を置く調査報道のフェレットが報じた。業界は、汚染は新しいろ過システムによって除去されると言い、スコットランド政府は、このシステムを「画期的な可能性がある」と評し、スコットランドで試験的に実施すべきだとしているという。

 サケにはウミシラミ(sea lice、外部寄生性カイアシ類甲殻類)が寄生する。このウミシラミを駆除するためにベンチマーク社は、イミダクロプリドを使った駆除システム=クリーンタンク・システムを開発し、ノルウェーで試験を実施しているという。スコットランドでも、そのシステムを「秘密裡」に導入しようとしていたという。

 スコットランド・サーモン・ウォッチはスコットランド政府とスコットランド環境保護庁(SEPA)に対して情報公開を求めてきた。ウォッチのスタニフォードさんは、「このような有害化学物質の使用について、漁師、貝類養殖業者、観光業者を含む一般の人々に情報を提供しなかったことは恥ずべきことだ」と指摘している。

 スコットランドの野生魚保護団体のガイ・リンリー=アダムスさんは、養魚場を海洋環境から切り離すことを求め、「業界が閉鎖的な封じ込めに移行すればウミシラミを処理する必要性は完全に消える」「実現するまでは、ウミシラミに対する化学薬品の軍拡競争は続き、養魚場によって引き起こされる海洋生態系へのダメージはさらに悪化するだろう」と指摘している。アダムスさんは、ベンチマーク社が同社のクリーンタンク・システムを閉鎖系だと主張していることについて、スコットランド環境保護庁(SEPA)に、どのように「厳密に監視」され、適切に運用されているか実証するように求めているという。

 EUは2013年にイミダクロプリドを含む3種類のネオニコチノイド系農薬を一時使用禁止にして再評価を実施し、ミツバチなどに有害であるとして2018年から屋外使用を禁止している。ベンチマーク社のクリーンタンク・システムは、このイミダクロプリドを海で使おうとしている。この点について、スコットランド緑の党(Scottish Greens)の環境広報担当のラスケル議員は、「陸上で使用禁止の農薬が魚の養殖で使われようとしていることを非常に懸念している」と述べているという。

 ・Ferret, 2020-3-17

 養殖サケの寄生虫駆除システムを開発しているベンチマーク社は3月20日、フェレットの報道を受けて、BMK08は主成分がイミダクロプリドであることを認めた。ただ、承認作業中であり、その詳細を詳らかにはできないとしている。

 同社によれば、サケの害虫のウミシラミは、同社が開発した閉鎖系のクリーンタンク・システムで処理されるという。養殖いけすからサケをタンク船に引き上げ、タンク船内のタンクで駆除薬剤BMK08を使い駆除する。駆除処理後、サケは再び養殖いけすに戻される。そして、サケを処理した後のイミダクロプリドを含む海水はろ過して排水されるため、環境を汚染することはないとしている。

 ・Benchmark Holdings plc、2020-3-20

米国カキ養殖はネオニコ系禁止協定

 米国ワシントン州のカキ養殖でもネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリドが使用されそうになっていたが、、昨年、ワシントン州当局とカキ養殖業者団体との間で使用禁止協定が締結され、イミダクロプリドの使用は阻止された。

 食品安全センターなど4団体は昨年10月、米国ワシントン州ウィラパ湾などのカキ養殖場でネオニコ系イミダクロプリドの使用を禁止する汚染防止協定がカキ養殖業者団体と同州エコロジー省の間で結ばれたと発表した。

 養殖業者団体は2018年、カキに害を与えるエビを殺すためにネオニコチノイド系のイミダクロプリドの使用許可を同州に申請した。これに対して4団体は、生態系から有害な農薬イミダクロプリドを締め出すために介入したという。

 食品安全センター、西部環境法センター、ピュージェットサウンド生息地保護連合、生物多様性センターは、ウィラパ湾でのイミダクロプリド使用させないためにために介入していたという。

 西部環境法センターのアンドリュー・ホーリーさんは、「ウィラパ湾とグレイズハーバーはユニークで壊れやすい場所であり、エコロジーがこれらの毒物とその生態系への影響を研究している科学者の意見に耳を傾けてくれたことを嬉しく思います。カキやアサリの養殖業者の中には、危険な農薬を使用せずにエビと養殖貝類のバランスを取ることに成功しているところもあり、これは今後のモデルとなるべきでしょう」と述べている。

 ・Center for Food Safety, 2019-10-21
 ・POLLUTION CONTROL HEARINGS BOARD STATE OF WASHINGTON, 2019-10-15
  協定書

 昨年11月、産総研などの研究グループは、宍道湖におけるウナギなどの漁獲高の急減は、田んぼで使われたイミダクロプリドが原因とする研究結果発表している。研究グループは、河川を介して宍道湖に流入したイミダクロプリドが、エサとなるプランクトンを死滅させた結果だとしている。

 米国ワシントン州でのイミダクロプリドの使用阻止は、宍道湖のような生態系への大きな影響を未然に防いだという点で大きな意味がある。スコットランドで問題となっている、イミダクロプリドを使うクリーンタンク・システムは閉鎖系だというものの、その詳細を明らかにしないままでは理解が得られない。そもそも、陸上で使用禁止となった殺虫剤を海で使おうとすることが間違っている。「沈黙の海」の愚を引き起こしてはならない。

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