英国の環境・食料・農村地域省(DEFRA)は1月8日、アブラムシが媒介するウイルス性テンサイ黄化病の防除に、ネオニコチノイド系農薬チアメトキサム(シンジェンタのクルーザーSB)の緊急使用を承認した。承認にあたり、てん菜の種子処理に限定し、かつ2021年のみの「厳しい条件付き」で承認したとしている。英国ではテンサイ黄化病により大幅な減収が見込まれているという。全英農業者連盟(NFU)とブリティッシュ・シュガーが緊急使用を認めるよう申請していた。フランスは昨年、てん菜のウイルス性テンサイ黄化病防除に21年から3年間に限定して使用を認める法改正を行っている。
環境・食料・農村地域省は8日の声明で、てん菜は開花作物ではないのでハチへの直接的なリスクは許容できると評価されたとしている。そして、圃場とその周辺の開花雑草からのリスクを最小限に抑えるために除草剤を使用するように求めている。また、クルーザーSB(ネオニコチノイド系チアメトキサム剤)で処理された種子を使用した圃場では、収穫後22か月は開花作物の栽培が禁止され、後作がナタネの場合は禁止が収穫後32か月に延長されるという。
環境・食料・農村地域省の声明によれば、申請者の全英農業者連盟は、他の合理理的な手段で防除できない場合の緊急使用の判断に、ウイルス予測モデルを使って予測し、経済的影響が生ずるレベル以上の場合に限りネオニコチノイド系農薬を使用するとしている。しかし、その予測モデルの詳細は明らかにしてはいない。この予測システムについて自然保護団体のバグライフは、「数か月前に実際にウイルスのレベルを予測することが可能かどうかは明らかではありません」と、その不確実性を指摘している。
声明はまた、申請者の全英農業者連盟などの計画では、この緊急使用が22年と23年にも必要となる可能性があるとしている。緊急使用が1年限りのものではないことを示唆している。
・DEFRA, 2021-1-8英国では、2018年にも同様の緊急使用の申請がなされたが、その時は、政府の農薬専門委員会が「圃場周辺の開花作物や開花植物によるミツバチへの容認できない影響がある」として却下されている。専門委員会はまた、「処理した種子からの実生を食べる鳥類と哺乳類、及び処理した種子を食べる鳥類」に害を及ぼし「水生昆虫の個体群に悪影響を及ぼす」と指摘しているという。
・Guardian, 2021-1-8自然保護団体のバグライフは8日、この承認は「砂糖産業の要求に屈服した」と非難する声明を発表した。声明では、チアメトキサムが周辺の野草に取り込まれ、ハチやほかの受粉媒介生物(ポリネーター)に害を与えるばかりでなく、河川を汚染してカゲロウなどの水生生物にも害を及ぼすと指摘している。そして、環境・食料・農村地域省の発表では、どのようにして河川の汚染を防ぐかが明らかではないとしている。
バグライフ代表のマット・シャードローさんは、「私たちはとても憤慨しています。これは、環境・食料・農村地域省による、環境に逆行する決定です。てん菜に使用されるネオニコチノイド系農薬による河川の汚染防止対策も提案されていません。2018年にてん菜へのネオニコチノイド系農薬の使用禁止の決定がなされて以降、科学的には何も変わっていません」と述べている。
・Buglife, 2021-1-8国際農薬行動ネットワーク・英国など40団体は12日、ユースティス環境相に、今回の緊急使用の承認撤回と非化学的な代替方法の開発を求める公開書簡を送った。2018年にEUがチアメトキサムを含むネオニコ系3農薬の屋外使用禁止を決定した際、当時のコーブ環境・食料・農村地域大臣は「科学的根拠が変わらない限り、政府はこのような規制強化をブレグジット後も維持する」と述べていたが、公開書簡はこの発言を引きつつ、「それ以来、ネオニコチノイドがミツバチや受粉媒介者だけでなく、鳥類やその他の野生生物にも悪影響を及ぼす証拠が増えています」と指摘。そして、「農家にこれらの有害な農薬の使用を認めることは科学を無視しており、環境を現状よりも良い状態に維持するという英国政府の目的を大きく損なうものです」と非難している。
公開書簡はまた、バグライフが指摘していると同様に、河川への流入による汚染と水生生物への影響を指摘し、緊急使用の承認が、てん菜農家が農薬に依存しない方策を示すことなく野生生物に害を与えるとしている。そのうえで、「私たちは英国政府に対し、この決定を撤回し、代わりに、自然に逆らうのではなく、自然とともに農業を行うための非化学的な代替手段を研究し、農家を支援することを強く求めます」としている。
・PAN-UK, 2021-1-12緊急承認の撤回を求めるウェブ署名が1月10日に始まっている。この署名には、わずか3日ほどで15万人余りが署名している。
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