

岡山大学や農研機構などが開発した穂発芽を遅らすゲノム編集小麦について、文科省は9月22日付けでこのゲノム編集小麦が遺伝子組み換え生物に該当せず、実験計画案通りでも生物多様性に影響を与えないとして屋外試験栽培の計画を「承認」した。岡山大学の研究グループは、ゲノム編集を使った穂発芽耐性大麦の開発も進めている。
公開された農研機構提出の実験計画報告書によれば、このゲノム編集小麦「アラニンアミノ酸転移酵素を改変した穂発芽耐性コムギ」は農研機構(茨城県つくば市)と岡山大学(岡山県倉敷)の屋外圃場で試験栽培を計画している。岡山大学の実験計画書では、栽培予定として今年11月中旬から来年6月上旬としているが、農研機構は「種子休眠性を複数年にわたり評価」するとしている。
実験計画報告書によれば、これまでの遺伝子組み換え作物と同じようにアグロバクテリウムを使い、ゲノム編集に必要な遺伝子や選抜用のハイグロマイシン耐性遺伝子など組み込んだとしている。最終的に組み込んだ遺伝子は残っておらず、オフターゲットは確認されなかったとしている。
・文科省, 2021-9-22 ・岡山大学, 2021-9 ・岡山大学, 2021-9-24 ・農研機構, 2021-9-24今回屋外栽培が認められた穂発芽耐性小麦は、ゲノム編集技術を使い小麦の3種類の遺伝子を操作して不活性化(ノックアウト)して種子休眠を長くするというもの。岡山大学と農研機構などの研究グループが2019年7月に専門誌に発表している。日本では麦の収穫時期の6月から7月にかけて梅雨に重なる場合があり、雨にあたって穂発芽してしまうことが問題となっていた。このゲノム編集穂発芽耐性小麦は、吸水後の発芽を遅らせる効果があるという。
・岡山大学, 2019-7-31 ・Cell Reports, 2019-7-30農水省や厚労省はゲノム編集作物について、外来遺伝子を挿入しないノックアウトであれば遺伝子組み換え作物とはみなさない。先ごろ流通が始まった高GABAゲノム編集トマトも外来遺伝子の組み込みないノックアウトのみということで届出が「受理」されている。この穂発芽耐性小麦が将来に商業栽培された場合、遺伝子組み換えではない一般的な作物、食品としての取扱いを受け、表示も不要である。また、この小麦を交配親として新たな穂発芽耐性品種が開発された場合、後代品種について届出が不要とされることから、消費者の知らないうちにゲノム編集小麦の加工品が普通に流通することになる。
しかし、従来育種による穂発芽耐性のパン用品種が開発され、その栽培面積が増加しているという。小麦の栽培面積が横這いにもかかわらず、この10年でパン用品種の栽培面積は、2万ヘクタールから5万ヘクタールと2.5倍に増加しているという。佐賀県で栽培が増えている「はる風ふわり」は、九州沖縄農業研究センターが育成した穂発芽耐性品種で、同賀県の奨励品種となっているという。梅雨入りが平年より20日早く、穂発芽が生じやすい条件も「はる風ふわり」は品質が低下しなかったという。愛知県では穂発芽耐性の「ゆめあかり」が、宮城県で穂発芽耐性の「夏黄金」の栽培が増えているという。
・日本農業新聞, 2021-10-3従来育種で「はる風ふわり」のように穂発芽耐性品種の開発が進み、栽培が増えている中で、現行の十分な安全性が確認されないゲノム編集作物が拙速に実用化されつつある状況は、将来に禍根を残しかねない。
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